「最高学歴」学生が描く新・将来設計に迫る 偏狭な理想論じゃダメ、現実をどう動かす?

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藤田教授は、人材に求める理想についてこう述べる。「現代に望まれているのは、電話や自動車の発明のように、それまで世界になかったモノを創り出す従来のイノベーションではありません。それよりも多岐にわたる学問分野に広く目を向け、まったく新しい発想や視点、考え方を取り込み、それまで誰もやったことのない方法や仕組みを使って社会やシステムに抜本的な変革をもたらす。そうした『本来的な意味でのイノベーション』が求められているのではないか」

超域イノベーションの特徴の一つとして、学生たちは、通常の専門研究も行いながら並行して超域イノベーションのカリキュラムに取り組み、博士号を取得する点がある。通常の研究を通して得る専門力に並行して、専門分野の枠を超えた思考力・俯瞰力を身に付ける目的だ。実際のコースワークでは、文系・理系の枠を超えて幅広い知識やスキルを学ぶモジュール型授業のほかに、課題設定・解決能力を総合的に修得するためのプロジェクト学習や海外でのフィールドスタディなどが設定されている。知識や思考を磨く「授業」と実践的な「学び」の両面から、科学的な方法論を涵養していくのだ。

中でも分野統合型の授業は、限られた時間、資源の中で、イノベーションに不可欠な全体を貫く論理や本質を導き出す体験を積むことができるよう緻密に設計されている。学生たちは解決困難な課題を前に悪戦苦闘する中で「超えることでしか生まれないもの」を手にする経験を積み重ねていく。

きれい事だけではない問題の本質を見出す経験

今年の春、5年間のプログラムを修了する2期生の高田一輝さん(工学研究科)は、自らの成長の手応えを3年次の「超域イノベーション総合」で実感したと振り返る。社会に実在する問題を取り上げ、その解決策の立案に挑む8ヶ月間の長期プロジェクト演習で、高田さんらは京都市北部の京北地域の自治体やNPOと連携し、地域の課題の解決に取り組んだ。

「当初与えられた課題は、地域で増加する空き家の問題を解決するというものでした。しかし京北地域を訪ね、フィールドでの調査を重ねる中で『いったい空き家の何が問題なのか?』という疑問が湧いてきたのです」と高田さん。自治体や住民へのインタビューや統計データの分析を重ねる中で「『空き家』は人口減少の象徴であって、解決すべきは『地域の過疎化』だ」という本質的な課題にたどり着いたという。

高田 一輝 さん
(工学研究科 博士後期課程3年)

「最初から明示されている課題に向かって追究していく専門研究とは違って、社会に実在する課題はあいまいで多岐にわたります。その中から本質を発見する過程を実体験できたのが一番の収穫です」と語る。

高田さんと同じチームで演習に取り組んだ同じく2期生の篠塚友香子さん(人間科学研究科)は、「具体的な解決策を出す難しさ」を身をもって知ったと明かす。さまざまな問題や利害関係をもつ人々が複合的に絡まり合う現実の課題に対し、誰もが納得できる解決策を見出すのは、言うまでもなく難しい。

最終的に篠塚さんらは、手厳しい指摘も含む提言を報告書にまとめ自治体に提示した。「助け合いや町おこしを試みている方々がいる中で、私たちに何ができるのか。議論を重ねた結果、現場と少し距離のある『外部パートナー』という立場だからこそできる提案があるのではと考えました。単なる批判に終わらないよう、それを裏づけるデータや分析も添付して客観的、論理的に説明しました。誰にどう伝えれば現実を動かせるのかも考えながら報告に臨みました」

檜垣教授も、学生たちの姿勢を高く評価している。「具体論から入って抽象論にたどり着くという『裏の目標』に、学生たち自身の力で到達してくれました。また、現実の課題はきれい事だけでは解決できない。リーダーには、時に非情な判断を下すことも求められます。学生たちは、そうしたシビアな側面にもしっかり向き合っていました」

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