岡山県奈義町が実現した「老いを楽しむ」社会 高齢者が、自ら主体となって動く秘訣は?
「お年寄りほどいい俳優はいない、そして、介護者は俳優であるべきだと気づきました。介護にはクリエイティブな側面があるのです」
菅原氏は認知症によるボケは、周囲も受け入れるべきだという。認知症になっておかしな言動になるのは仕方のないこと。しかし、認知症はあくまで、認知の障害であり、感情に障害はない。いちいち失敗を指摘したりすることで、気持ちが傷つくのは、認知症の人もそうでない人も同じである。だからこそ、彼らの感情に寄り添うべきだと語る。
「私たちの常識からすれば間違ったことでも受け入れなければならない。私たちから見えないものでも、見たふりをしなければならない。そこに演技が必要になってくるのです」
ワークショップでは、認知症を疑似体験できる即興演劇に参加してもらい、どんな気持ちになったのかを体験者にインタビューを行う。そうしたワークショップを各地区のサロンや老人ホームなどで開催、介護従事者や学生も多く参加しているという。
「〝おかじい〟と呼ばれる91歳の岡田忠雄さんという男性を俳優として起用し、一緒に芝居もつくっています。彼には認知症の奥様がおり、ワークショップをきっかけに奥様との関わり方が変わったとおっしゃっています」
菅原氏は「お年寄りほど自分の役割を求めている」と指摘する。
「岡田さんは私のことを監督でもないのに監督と呼びます。それは彼が俳優という役割を全うしたいからです。老いることは不条理に人から役割を奪いますが、人は生きている限り何らかの役割を持っていたいのです」
奈義町では、こうした多くの人たちの知恵が集まる中、松下氏がリーダーシップを執り、地域包括ケアに携わるプロたちの職業意識を刺激し続けている。それが「高齢者が自らつながる仕組み」を強固なものにしている。松下氏が言う。
「将来は奈義町も例外なく、高齢者がさらに増え、認知症も増加していくでしょう。その中で、本人がどんな最期を迎えたいのか。我々も『私らしゅう生きるノート』と題するエンディングノートを作成して、高齢者の希望や気持ちに寄り添える努力を続けています。今後も個人の尊厳を最優先に地域医療の在り方を探っていきたい。そう思っています」