岡山県奈義町が実現した「老いを楽しむ」社会 高齢者が、自ら主体となって動く秘訣は?
「絵に描くことは簡単ですが、実際に行うのは難しい。ケースごとに対応が異なるため、どのメンバーが関わってもうまく機能するように、困難事例の検討ではマインドマップのような全体図を使った見える事例検討会をします。そうやって切り口を考えると意外と対応策も見つかりやすい。多職種連携には全体を"見える化"することがカギとなるのです」
高齢男性を外に誘い出し「元気なじいさん」に
奈義町では、他にも地域包括ケアをユニークな方法で推し進めるキーパーソンたちがいる。その1人が奈義町社会福祉協議会で生活支援コーディネーターを務める植月尚子氏だ。町役場で保健師として働いた後、この仕事に携わるようになった。町の住民事情に詳しく、本人曰く「動く住民台帳」。そんな植月氏が関わっているのが、「ちょいワルじいさんプロジェクト」だ。高齢男性は女性に比べ、要支援状態になっても、プライドが邪魔をしてデイサービスなどを利用できず、家に引きこもって酒浸りになったりするケースが多いという。そこで高齢男性が、気負わずに社交的に振る舞える場を提供することを目的として、プロジェクトがスタートした。
具体的には、皆が集えるスナックのような居場所づくりや介助付きの日帰り温泉旅行などの企画を立てたりすることで、高齢男性を家から連れ出すためのきっかけづくりを行っている。「介護予防に必要なのは、運動と仲間づくりです。仲間ができれば、より活動的になります。男性が最期まで遊び心を持って"ワルさ"ができるように、アイデアを出してくれる有志を募り、60代以上の男性が中心となって活動することになったのです」
「つるんでいた友人が亡くなってしまうと途端に居場所がなくなってしまい、そのために認知症が進んでしまうこともあります。だからこそ、誰もが継続的に集える居場所が必要です。誘い合って遊びに来てもらい、そこで地域や人の役に立つことに生きがいを見出すことで、自分も健康になるような場所にしたい」
地域が支え合うことに加え、住民自らが健康づくりや介護予防に自主的に取り組むことが重要だと植月氏は語る。
「単に行政が呼びかけるだけでなく、10年後、自らがどうありたいかを住民に問いかけることでその気にさせることが必要です。奈義町の住民には自分たちの町を大事にしたいという思いがあります」
「役割を与える」演劇と介護の意外な可能性
奈義町では、さらに「老いと演劇のワークショップ」という取り組みも行われている。主宰しているのは、地域再生推進法人「ナギカラ」のメンバーとして奈義町アート・デザイン・ディレクターを務める菅原直樹氏だ。菅原氏は劇作家の平田オリザ氏のもとで演劇活動をしつつ、ホームヘルパー2級の資格を取得。その後、岡山に移住し、現在は劇団「OiBokkeShi(オイ・ボッケ・シ)」を主宰し、奈義町の芸術文化の振興を担っている。ワークショップを立ち上げたきっかけは、介護と演劇の相性の良さを実感し、認知症の方を受け止めるコツを、演技を通して伝えたいということだった。