イノベーティブな人材をどう育成するか? 伊藤嘉明氏が語るVUCA時代のマインドセット
堀内:日本企業に勤める人材についてはどうでしょうか。私はスタートアップ企業やベンチャー企業の経営者と会う機会が多いのですが、優秀な人が多いと感じます。
伊藤:確かに、企業人でも優れた人材はたくさんいます。私は米国、欧州、アジアなどさまざまな国や地域の人材を見てきましたが、日本の人材は決して負けていません。特に30代の若手には優秀な人が多いですね。ところが、企業の中で5年、10年とトレーニングを受けていると、そのとがったいいところが削られて普通の人になってしまうのです。
西村:プロ意識が必要かもしれませんね。私は外資系企業のエンジニアからマーケターになりました。キャリアは変わっても自分がプロだと思っています。日本では若い人が「私なんてまだまだ」と謙遜することが少なくありませんが、海外では通用しません。プロでなければ仕事はありませんから。逆に言えば、自分はプロフェッショナルであると考えるだけでマインドが変わります。
堀内:伊藤さんはさまざまな企業でマネジメントをされていますが、人材育成の観点から見るとどうでしょうか?
伊藤:人間は2つのことで動く生き物だと思います。メリットと恐怖政治です。ただし、恐怖政治の場合、長続きしないですね。モチベーションを持ち続けて動いてもらうためには、経営層レベルから失敗しても大丈夫だからとにかくやってみろ、という言葉と実行が大事だと思います。1つでも失敗したらキャリアが終わってしまうといった体制では、この変革の時代に革新を起こすような行動はとれないでしょう。若手が腐らずにドライブできる状況が重要だと思います。
革新を起こすには、あきらめないこととナインティーデイズプランが重要
堀内:AI(人工知能)など、人材育成とあわせて切っても切り離せないテクノロジーの進化についてはどう思いますか?
伊藤:AIやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)が普及すると、「この仕事は何のためにやっているのか」が明確になります。見方を変えれば「この人は要らない」ということが可視化されてしまうのです。謙遜しているだけでは存在する価値がなくなります。
堀内:ただ、日本の大手企業ではなかなか変えることは難しいという声もあります。
伊藤:「あの上司や社長では理解してくれない」とこぼす人もいます。しかし、あと10年社長が代わらなければ、ずっとそう言い続けるのでしょうか。私は20代、30代のころからずっと、課題に直面するたびに「それを何とかできないか」と考えて行動してきました。目の前にそびえる山が険しければ、隣の山からケーブルカーで登る方法があるかもしれません。ぜひ諦めないで挑戦してほしいですね。あきらめないことのほかに、私は”ナインティーデイズプラン”の実行を心がけています。