在庫300億円超の専門商社を支えるERP 激動の時代を生き抜く先手必勝のIT活用
卸売業や商社にとって、過剰在庫というのはリスクとして捉えられてきた。その中で、全国に自前の16か所の物流センター、5か所のストックセンター(以下、合わせて21か所と明記)を持ち、在庫数33万アイテム、総在庫金額は300億円を超えるという独自のロジスティックシステムを確立している企業がある。機械工具卸商社のトラスコ中山だ。2023年12月末には、50万アイテムの在庫拡大を図るという。同社の「攻め」の企業経営を支えるデジタル戦略とその実現のためのIT面からのアプローチについて、執行役員情報システム部長の数見篤氏と、日本IBMの理事である内田真治氏が語り合った。
「在庫を持たない」の真逆を攻める経営
数見 当社はモノづくりの現場で使われる工具、作業用品などのプロツールに特化した専門商社です。約2200社のメーカー各社から仕入れ、小売店を通じて約100万社のエンドユーザーに約150万アイテムの商品をお届けしています。仕入先は海外を含めて毎年100~150社、取扱商品は年に3万アイテムほど増えています。ユーザーから注文のあった商品をできる限り迅速に提供するため、全国21か所の物流センターに33万アイテム、金額にして300億円を超える在庫を持っています。在庫をできるだけ持たない経営が一般的ですが、ここに当社の企業価値があると確信しています。
内田 在庫を持つことで付加価値を上げていくという、新しいビジネスモデルをつくろうとされているのですね。しかし商品が増えるほどITやデータの活用が重要になっていきます。11月にトラスコ オレンジブックAI課を新設されたのは、そのためですか。
数見 当社が発刊している商品カタログ「トラスコ オレンジブック」は36万アイテムを掲載し、24万部という発行部数を誇るモノづくり大辞典です。ウェブカタログも展開しておりますが、さらに商品の検索性及びお客様の利便性を向上させる施策が必要でした。そこで当社はAIの活用を考え、どのように当社の機能強化やお客様のお役に立てる企業づくりに活用できるかを実証するために、AIを導入しました。プロツールの分野に関して、AIを導入している同業はまだありません。だったら早く試したほうがいい。失敗も苦労もするでしょうが、早く失敗したほうが早く学べるというのが当社の考え方です。