脳梗塞や心筋梗塞は「月曜午前」に起こる
「会社に行きたくない」。誰もが一度はそう思ったことがあるだろう。特に休み明けの月曜日に憂鬱になる人が多いようで、自殺も月曜日が多いと言われている。だが実は、脳梗塞や心筋梗塞といった心血管事故も月曜日午前が多いことをご存知だろうか。しかも、この現象は30代~60代前半の勤労者、つまりビジネスパーソン特有の現象だという。その原因を明らかにすべく、このたび独立行政法人労働者健康安全機構・旭労災病院の病院長である木村玄次郎氏を中心とするチームが調査を行った。木村氏は、調査の背景について次のように語る。
旭労災病院 病院長
木村玄次郎
「勤労者において月曜日の午前中の心血管事故が多発していたのです。その要因としては高血圧が考えられました。血圧が高い状態が続く人を”持続性高血圧”といいますが、診察室で測定した血圧が正常でも、それ以外の時間で血圧が高くなる人を”仮面高血圧”と言います。この仮面高血圧でも持続性高血圧の人と同様に高い頻度で心血管事故を起こすことがわかりました。そして、勤労者における仮面高血圧を考えるときに重要になるのが職場で血圧が高めとなる”職場高血圧”で、職場でのストレスが原因で血圧が上昇しているのではないかと考えたのです」
そこで調査チームでは、「仕事中のストレスが職場での血圧を上昇させる」「休日に比べ平日、中でも金曜より月曜の方が血圧が上昇している」「その血圧上昇が心血管事故を誘発する」という仮説を立て、実地調査を開始した。調査では、20歳~65歳未満で典型的な勤労者の男女(平均51歳)を対象に、月曜・金曜・休日の3日間、起床時、就眠時、そして職場で午前10時と午後4時の1日4回にわたって血圧と心拍数の測定が行われた。
原因は「ダブルプロダクト」の上昇
では、その調査の結果、何がわかったのか。木村氏が語る。
「血圧については全般的に大きな違いが認められませんでした。しかし心拍数と収縮時血圧を掛け合わせた指標である”ダブルプロダクト”で見ると、月曜午前10時に明確な上昇が認められたのです。ダブルプロダクトとは、心臓への負荷と全身の酸素消費量を測る指標で、心血管事故を予測できるリスク因子であることがわかっています。よく日曜日夜にテレビアニメの『サザエさん』を見て憂鬱になる”サザエさん症候群”の人がいると言われます。この時のダブルプロダクトをみても、日曜日に大きな上昇はなく、影響はそれほどでもないこともわかったのです」
続いて木村氏らのチームは、休み明けの仕事はじめがストレス要因となると考えて「職場高血圧」についても、同様の方法で調査を行った。
その結果、健診などで血圧が正常でも起床時や就寝前に血圧を測定すると高血圧と診断される集団が約45%存在すること。また、起床時や就寝前の血圧が正常であっても、仕事中に血圧が上昇する職場高血圧が約17%に達すること。さらに、職場高血圧でも、血圧は通常の高血圧ほどではないが、ダブルプロダクトが上昇する傾向が確認でき、職場でのリスク軽減の必要性がわかったという。
「今後、月曜午前のダブルプロダクトの上昇が、心血管事故と具体的にどのように関連しているのかを、明らかにする必要があります。仕事によるストレス負荷を定量化するうえでは、血圧値以上に心拍数のほうが有用であると考えていますが、どちらが心血管事故と密接に関連しているかはさらなる調査が必要になってくるでしょう」(木村氏)。
プレミアムフライデーより「スローマンデー」が大事
日本のような先進国で死につながる重大疾病の大きなリスク要因となっているのが、「高血圧」「喫煙」「高コレステロール」だ。特に高血圧は日本人の死因の上位を占める脳・心血管疾患の発症リスクを高めるもので、脳卒中の62%、冠動脈疾患の49%の発症要因と言われる*1。
「脳卒中ほか心筋梗塞や突然死についても月曜午前10時が最も起こりやすい時間帯であることがわかっています」(木村氏)
国内の高血圧患者数は4000万人と言われており、そのうち半分の2000万人しか自分が高血圧であることを認識していないという。しかも、高血圧を認識している患者でさえ、その半分しか治療を受けておらず、さらに、そのまた半分しか良好に血圧をコントロールできていないという。つまり、高血圧の降圧療法の恩恵を受けているのは、患者全体の8分の1に過ぎないのである*2。
さらに注意しなければならないのは、若くても高血圧になる可能性が十分にあるということだ。ビジネスパーソンならば、年齢にかかわらず月曜午前に大きなストレスがかかっているのではないかと予想し、ダブルプロダクトの上昇を抑える対応が必要だ。木村氏がそのために提唱するのが「スローマンデー」だ。
「これからはビジネスパーソンの働き方改革を進めなければなりません。特に月曜日の仕事をスロースタートにして仕事モードに切り替えていく必要があります。そのために金曜日に月曜日の予定を整え、重要な会議はなるべく月曜日にしないよう考慮するなどが大切となってきます。そして、何よりも月曜午前のダブルプロダクトの上昇は、仕事のストレスの表れだとみなすべきです。消費を促すプレミアムフライデーより、健康を守るスローマンデーが大事なのです」
特に肥満の人は高血圧になりやすいので、仕事でのストレスを軽減していくと同時に食生活を見直す必要がある。また、肥満ではなくてもストレスが多く多忙な30代~40代の働き盛りのビジネスパーソンは注意が必要だ。木村氏は、こうアドバイスする。
「高血圧を予防するには、日頃から健康診断を受けたり、自分で毎日血圧を測ったりすることが重要になってきます。特に、働き盛りのビジネスパーソンは、健康への意識を高めて改めて自身の健康状態を見つめなおすのがいいでしょう。健康な人でも1日の中で血圧は変動します。だからこそ、毎日血圧を測ることが重要なのです。市販の血圧計で今の自分の状態を把握して、問題があれば早めの対応をとる。それがリスクを軽減することにつながるのです」
*2 Smith WCS, et al: Control of blood pressure in Scotland: the rule of halves. BMJ 300: 981-983, 1990
