
短期間×パーソナルトレーナーという英語学習のトレンド
JR品川駅の高輪口から歩いて数分。品川ステーションビルの9階に「ENGLISH COMPANY」の品川スタジオがある。木製のテーブルと椅子が配置されたシンプルなインテリアのスタジオで、受講生はトレーナーとペアになってトレーニングをする。トレーニング期間は3カ月と短い。
現在、英語学習のマーケットでは、こうした短期間でパーソナルトレーナーが指導する英語スクールが一つのカテゴリーとして認識されるほど拡大している。ENGLISH COMPANYの門をたたくのは、TOEIC(R)で400~600点というレベルのビジネスパーソンが多い。上司が外国人になった、外資系企業に買収されて社内会議を英語で行うようになったなどと、早急に英語力を向上させなくてはならない事情を抱えて申し込んでくる人が多いという。それだけ英語に対する切実なニーズが増えているとも言えるだろう。
ENGLISH COMPANYでは、トレーナーは担当する受講者のレベルに合ったカリキュラムを組み、スタジオで行うトレーニングを週2回、計180分、3カ月間続ける。それ以外は受講生が自宅や通勤時間などを利用して自習することになるが、トレーナーとともに目標や学習内容を決め、進捗状況はSNSやメールを使用してトレーナーが管理する。受講生はスマートフォンに録音した英語の音声をトレーナーに送り、発音についてアドバイスしてもらうことも可能だ。
第二言語習得研究に基づく効率的なトレーニングを実施
トレーナーは専門知識を武器にトレーニングを提供する。
「第二言語習得研究という学問に基づいて、効率的に英語力を向上させるパーソナルトレーニングを行います」と語り始めるのはENGLISH COMPANYを運営する恵学社の岡健作代表取締役。「受講生の課題を的確に発見することが重要な意味を持ちます。課題がわかれば、世の中にたくさんある英語学習のメソッドからその課題を解決するものを選び出して提供できます。パーソナルトレーニングとは、課題の発見と適切な解決策の提示にほかなりません。そして、課題発見の上で非常に重要なのが、第二言語習得研究の知見です」。
大学院の研究室で第二言語習得研究を学んだ田畑翔子取締役が続ける。
「2010年のスタート時には、第二言語習得研究を全面に出して英語教育を提供しているところはほとんど見当たりませんでした。しかし今はだいぶ多くなってきたと実感していますし、私たちはそうしたトレンドを歓迎しています。効率と効果を基準にしたスマートな学習法が広がることが、私どもが会社を立ち上げた意味ですから」
母語と第二言語では習得のメカニズムが違う
ところで「第二言語習得研究」とはどのような学問なのだろうか。
「従来は、母語も第二言語も、同じメカニズムで習得できると考えられていました。母語の場合、子供は特に学習しなくても自然と言語を習得できます。ですから、第二言語もひたすら聞いていれば身に付くという考え方がありました。
しかし、1960年代に始まった第二言語習得研究により、実は二つのメカニズムが異なることが明らかになってきました。当然、学習法も変わってしかるべきでしょう。第二言語習得研究はさまざまな学問領域のエビデンスを結集して効果的なプロセスを導き出そうとします。大人であれば、まずは文法や語彙などの基礎的な知識を学び、そのうえで聞く・読むという受容スキルを獲得する。その後、アウトプット、つまり書く・話すという産出スキルを身に付けるというプロセスが効率的です」と田畑氏は説明する。
取締役
ENGLISH COMPANY担当部長
「スタディ・スマート」をコンセプトとして設立された教育系ベンチャー企業である恵学社は、大学受験のための予備校を2010年より運営している。受験生向け短期集中型の学習プログラムの中に第二言語習得研究のノウハウを取り入れて、その効果を実感した。そうした経験を経て、効果的な英語学習法を社会人向けに横展開、ENGLISH COMPANYという英語ジムが誕生したのだった。
誰かに伝えたくなる学びの効果
「ある外資系企業にお勤めの受講者の場合、米国とやり取りする電話会議の内容がよく理解できず、自分の意見を言うこともできないとおっしゃって学び始めた方がいました。しかし3カ月間のトレーニング終了後には、会議でも積極的に発言できるようになり、上司や同僚の方が驚いたそうです」と、田畑氏が明かすこのエピソードには後日談がある。驚くほど英語が上達したこの受講者を見て、その同僚らが次々にENGLISH COMPANYに入会を申し込み、その数が実に30人以上に及んだというのである。
「TOEIC(R)で500点〜600点レベルの方なら90日で800点レベルに上がることも少なくありません。TOEIC(R)の対策を行っているからではなく、英語力が総合的に上がった結果、大きなスコアアップが実現するのです。結果は数値によって可視化しないと何とでも言えてしまいますから、積極的にテストを受けていただくようにしています。学びの成果をスコアで実証する。スコアを重視するのは結果がすべてである予備校事業のDNAが流れているからです」と岡氏。
しかも3カ月のトレーニングで身に付いた学習習慣が卒業後にも効果を発揮するという。「学習の継続にはモチベーションより『仕組み化』が大切」という考えにより、ENGLISH COMPANYは「やる気」や「モチベーション」を刺激することを狙わない。狙うのはむしろ「やる気がなくても続く仕組み」を作ることだ。
口コミで受講者数が増えているのは、前述の外資系企業の受講生だけではなく、誰かに語りたくなるほど、スマートな学びとその結果に満足している卒業生が多いからともいえる。
ENGLISH COMPANYの受講料は3カ月で45万円が基本。45分セッションを週4コマ(2日)で月12時間。
「専門性を担保した上での長時間のマンツーマン授業に毎日のオンラインサポートをつけて月に15万円という価格はパーソナルトレーニング系の英語スクールとしては価格を抑えています。2010年からのノウハウの蓄積により、開発コストをカットすることでこの価格を実現しました」と岡氏は語る。「効率的な学びの普及」をミッションとして掲げる企業だからこそ、こうした価格設定が可能になったとも理解できる。
取材時の10月中旬時点では、申し込んでもトレーニングを開始できるまで1~2カ月待ちの状況が続いている。既存のスタジオに希望者が押し寄せる中、東京だけではなく、名古屋、福岡、神戸などから「ぜひ早期にスタジオを開設してほしい」とのリクエストも寄せられているという。
しかし、恵学社はいたずらに拡大路線を歩む気はないようだ。トレーナーの求人には、毎月60人を越える応募者がいるものの、採用に至るのは2人程度。岡氏も「トレーナーの質で妥協するつもりは一切ない」とコメントする。ちなみに、トレーナーの採用基準の前提条件がTOEIC(R)900点。もちろんTOEIC(R)のスコアだけで採用に至ることはない。これはあくまで前提だ。このハードルを下げる予定もない。恵学社としてはトレーナーを慎重に採用、しっかりと教育しながら、この一年では5カ所ほどスタジオを新設する計画だ。
今やさまざまな仕事で必須になりつつある英語力。気合いと根性から脱却し、スマートに学べるジムがどこまで拡大していくのか。これからが楽しみでもある。