信治郎を描くことで見えてくるもの
――企業人主役の小説執筆は珍しいですね。
「人物の小説」は過去に自著が1冊しかなく、『ノボさん 小説正岡子規と夏目漱石』のみ。これは文学の範疇だった。経済人にお会いすると、ビジネスを手掛けてきた人なのだとの感慨は持つが、僕自身が執筆することはありえないと思っていた。
――鳥井信治郎が「人間の魅力」に満ちていたのですか。
連載が終わった直後の日本経済新聞の日曜版コラム(9月10日付)に記したとおりで、信治郎を描くことで「日本人とは何であるかを探る貴重な入り口に立てる」と思ったのだ。サントリーと仕事でかかわったのは2000年以降、毎年1月の新成人と4月の新社会人の日に、新聞広告で熱きメッセージを書くぐらい。現会長の佐治信忠さんが初期から僕の本を読んでくれていて、個人的な付き合いはあるが、つるんだりするのがダメな人という印象だった。
もともと、企業人との仕事はなるべくしないほうがいい、企業の中に立ち入らないほうがいいというのが僕の考えだ。2代目社長の佐治敬三さんには会ったことも話したこともない。サントリーとは20年ぐらいの付き合いだが、会社に行ったのは一度ぐらい。ラグビー場にさえ一度ぐらいしか試合を見に行っていない。
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