日本企業は成長戦略をどう描けばよいのか? ASEAN CONFERENCE 2017

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ASEAN市場攻略の鍵となる、現地マネジメントの実際

猪野 薫氏/DIC 取締役常務執行役員

印刷インキや有機顔料、合成樹脂を手がけるDIC(旧大日本インキ化学工業)の猪野薫氏は、アセアンの魅力について、成長の伸びしろが大きいことなどを挙げ、カスタマイズした国内向け製品とは別に、汎用的なアジア戦略品でボリュームゾーンを狙う戦略を例示した。そのためには現地ニーズを取り込むマーケットイン型の開発、製造、販売を行なうことが有効と考えており、その体制はすでに整えた。現在、該社はアジアパシフィックを含めて、事業軸と地域軸のマトリクス経営体制を敷いており、地域統括会社には本社製品本部長の地域代表を置いて戦略執行に当たらせている。地域統括会社の管理部門は財務・人事等のサービスを提供してガバナンスを支える。ローカル人材を複数の現地法人で社長に登用するなど、ダイバーシティマネジメントも推進。「マトリクス経営は思った以上に煩雑になる傾向もあるが、地域の声を無視すると事業戦略を誤ることになる。縦軸横軸の交点では、良い意味での摩擦軋轢が発生することも多い」と述べた。

椎野 工氏/森永乳業 執行役員海外事業部長

インドネシアで1970年代から育児用ミルクの日本からの輸出、80年代からライセンス供与の形での現地生産に取り組んできた森永乳業の椎野工氏は、毎年、日本の約4.5倍の450万人が出生するインドネシア市場の大きさを魅力に挙げた。国内市場依存度が高い食品業界の中では、早い時期の進出で、2004年には合弁の製造会社を現地に設立。インドネシア人スタッフは知識習得に熱心で、品質管理水準は日本と同等以上になっており「文化的にも雰囲気や相手の感情を大事にする点などが日本と近い」と、仕事環境の良さを強調した。優れた現地パートナー企業を得たことで、難しいとされる現地の労務管理も問題は起きていない。人材育成については「乳児が口にするものだけに失敗は許されないという価値観の共有が大事。金銭面だけでなく、一体感やモチベーションを大事にすべきです」と語った。

荒瀬秀夫氏/テルモ 取締役上席執行役員アジア・インド地域代表

テルモの荒瀬秀夫氏は、多様性の高いアセアンでの戦略を説明した。同社は、全事業を3つに分け、各事業がグローバル全体を見ることを基本にしているが、アジアでは、シンガポールの地域統括会社とのマトリクス制を採用。事業は生産や商品マーケティング戦略、地域は管理、販売・流通をそれぞれ受け持つ。マーケティングは、各地域に合わせた戦略にするため、地域のオペレーションからのフィードバックで戦略を再構築するサイクルの迅速化を意識。医師研修支援など医療インフラ整備にも取り組み、現場に入り込む戦略で、差別化を進める。事業環境の変化に素早く対応できる機敏な組織づくりにも注力。地域イベントに血圧測定ブースを出展して、社員の意識を高めるなど、付加価値を自ら考える企業文化の醸成に取り組む。今後は「拡大する中間層にフォーカスした戦略にシフトしたい」と語った。

藤井康秀氏[コメンテーター]
大石芳裕氏/明治大学 経営学部教授[モデレーター]

KPMGの藤井氏は、人材について、仕事に求めるものは国ごとに異なり「民族性を考慮すべき」とコメント。管理人材が不足する国には、アセアン域内で補う異動を促した。

モデレーターの明治大学、大石芳裕氏は「多様なアセアン全体に通じる一般性を見つけ、アレンジして各国に適用する、一般化と特殊化のいいとこどりが必要」と指摘。アセアンから出てきた競合企業との協力も考慮するよう示唆した。最後に「プレゼンスは低下しているが、日本のブランド力はまだ高い。それを各社の力につなげ、復権を」と訴えた。

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