日本企業は成長戦略をどう描けばよいのか? ASEAN CONFERENCE 2017

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1967年の創設から今年で50年を迎えたASEAN(東南アジア諸国連合)が世界経済における存在感を増している。そこに、日本企業はどう向き合うべきか、を考える「ASEAN CONFERENCE 2017」が東京・中央区で7月13日に開かれた。開会あいさつで、東洋経済新報社の山縣裕一郎社長は、日本とアセアン間の貿易、M&Aなどで密接な関係を指摘。一方、流動的な安全保障情勢、労働慣行、税制などの課題もあり「各国の文化、状況を正確に理解することが重要です」と、カンファレンスの狙いを述べた。
[主催]東洋経済新報社[メインスポンサー]KPMG /あずさ監査法人
[展示スポンサー]S&P Global Market Intelligence
[後援]外務省 経済産業省 日本アセアンセンター

来賓挨拶
ASEAN創設50周年のその先

志水史雄氏/外務省 アジア大洋州局参事官

外務省の志水史雄氏はアセアンの政治安全保障を中心に解説した。アセアンの政治安全保障共同体は、平和的紛争解決の原則を掲げ、東アジア首脳会議で、同地域に隣接、関心を持つ国も含めた議論の場を設けている。南シナ海問題では、海洋側のフィリピン、ベトナム等と、中国と関係が深い内陸部の国との立場が一致しない課題も見える。中国は一帯一路構想で、アセアンとの関係強化を推進。「日本は、平和と安定のパートナーとしてアセアン各国と協力していく」と述べ、ODA(政府開発援助)とともに民間の進出も重要との見方を示した。

岩田 泰氏/経済産業省 通商政策局 アジア大洋州課長

経済産業省の岩田泰氏は、日本企業の生産拠点だったアセアンでは、今後、内需を対象にしたビジネスが伸びしろになる、と指摘した。1997年のアジア通貨危機後、しばらく続いた低迷から立ち直り、リーマンショックの影響も長引かず、中間層が急速に育ってきている。インフラはまだ不十分な面もあるが「デジタル経済などで、日本企業がアセアン経済のボトルネックに対するソリューションを提供すれば、共に成長できるパートナーになれる」として、経産省もそのための取り組みを進める考えを強調した。

基調講演I
【ASEAN M&A、オペレーション】

アセアンM&Aの現場で何が起きているか?
―M&Aを通じたアセアン成長戦略

藤井康秀氏/KPMG Advisory( Myanmar) Ltd.Managing Director 兼Global JapanesePractice-ASEAN統括パートナー

KPMGの日系企業サポートを統括する藤井康秀氏は、10カ国でGDP計約300兆円と世界6番目の規模があるアセアンでは、工業化、都市人口増加で、全体の3割弱、約1・9億人(2012年)の中間層が形成されてきたことを強調。中間層は20年に約4億人となり、消費市場拡大が予想される。人口ボーナス期が終わりに近づく国も見られ、若く低廉な労働力は転換点を迎えている。アセアン構成国は文化、宗教などの面で多様で、経済レベルも大きく異なる。さらに、国内の格差も増大傾向にあり、消費市場としては多様な層への対応が必要だ。「日系企業は、地域市場を理解する地元企業を活用するためのM&A、グループ会社のガバナンス強化、地域密着の戦略を展開する統括機能強化が必要」と訴えた。

濱崎孝司氏/KPMG シンガポールM&Aチームディレクター

KPMGシンガポールの濱崎孝司氏は、アセアンでのM&Aが2006年以降、件数・金額ともに順調に伸びる新局面に入ったと指摘。「10年後にGDPで日本を抜くと予想されるアセアンの企業は、全体としてみると、日本企業以上の力を付けると考えられる」と、日本企業が優位性を持つ間にM&Aを進めるべきという考えを示した。アセアン案件は規模が小さく、買収後の売上増には必ずしも直結しないことから「小さく買って、大きく育てるアプローチ」を推奨。実務上の留意点として、ガバナンスの弱さ、デューデリジェンスでの開示情報の制約を課題に挙げ、意識が低い現地企業と日本企業とのガバナンスの認識ギャップが案件破談につながる可能性を示した。M&Aプロセスにおいて、「欧米企業は円滑な統合計画を最も重視するが、日本企業はデューデリジェンスに多くの時間を割く一方で、統合計画まで手が回らないことが多い」と指摘した。自社ロードマップの中で対象会社をどう活用していくか、主体的な戦略が求められると強調した。最後に、買収後の円滑な経営に不可欠な人材について、「自社長期戦略と対象会社の自社グループにおける位置づけを現地のキーマネジメントと共有し、相互に信頼関係を構築することが重要」と語った。

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