[主催]東洋経済新報社[メインスポンサー]KPMG /あずさ監査法人
[展示スポンサー]S&P Global Market Intelligence
[後援]外務省 経済産業省 日本アセアンセンター
来賓挨拶
ASEAN創設50周年のその先
外務省の志水史雄氏はアセアンの政治安全保障を中心に解説した。アセアンの政治安全保障共同体は、平和的紛争解決の原則を掲げ、東アジア首脳会議で、同地域に隣接、関心を持つ国も含めた議論の場を設けている。南シナ海問題では、海洋側のフィリピン、ベトナム等と、中国と関係が深い内陸部の国との立場が一致しない課題も見える。中国は一帯一路構想で、アセアンとの関係強化を推進。「日本は、平和と安定のパートナーとしてアセアン各国と協力していく」と述べ、ODA(政府開発援助)とともに民間の進出も重要との見方を示した。
経済産業省の岩田泰氏は、日本企業の生産拠点だったアセアンでは、今後、内需を対象にしたビジネスが伸びしろになる、と指摘した。1997年のアジア通貨危機後、しばらく続いた低迷から立ち直り、リーマンショックの影響も長引かず、中間層が急速に育ってきている。インフラはまだ不十分な面もあるが「デジタル経済などで、日本企業がアセアン経済のボトルネックに対するソリューションを提供すれば、共に成長できるパートナーになれる」として、経産省もそのための取り組みを進める考えを強調した。
基調講演I
【ASEAN M&A、オペレーション】
アセアンM&Aの現場で何が起きているか?
―M&Aを通じたアセアン成長戦略
KPMGの日系企業サポートを統括する藤井康秀氏は、10カ国でGDP計約300兆円と世界6番目の規模があるアセアンでは、工業化、都市人口増加で、全体の3割弱、約1・9億人(2012年)の中間層が形成されてきたことを強調。中間層は20年に約4億人となり、消費市場拡大が予想される。人口ボーナス期が終わりに近づく国も見られ、若く低廉な労働力は転換点を迎えている。アセアン構成国は文化、宗教などの面で多様で、経済レベルも大きく異なる。さらに、国内の格差も増大傾向にあり、消費市場としては多様な層への対応が必要だ。「日系企業は、地域市場を理解する地元企業を活用するためのM&A、グループ会社のガバナンス強化、地域密着の戦略を展開する統括機能強化が必要」と訴えた。
KPMGシンガポールの濱崎孝司氏は、アセアンでのM&Aが2006年以降、件数・金額ともに順調に伸びる新局面に入ったと指摘。「10年後にGDPで日本を抜くと予想されるアセアンの企業は、全体としてみると、日本企業以上の力を付けると考えられる」と、日本企業が優位性を持つ間にM&Aを進めるべきという考えを示した。アセアン案件は規模が小さく、買収後の売上増には必ずしも直結しないことから「小さく買って、大きく育てるアプローチ」を推奨。実務上の留意点として、ガバナンスの弱さ、デューデリジェンスでの開示情報の制約を課題に挙げ、意識が低い現地企業と日本企業とのガバナンスの認識ギャップが案件破談につながる可能性を示した。M&Aプロセスにおいて、「欧米企業は円滑な統合計画を最も重視するが、日本企業はデューデリジェンスに多くの時間を割く一方で、統合計画まで手が回らないことが多い」と指摘した。自社ロードマップの中で対象会社をどう活用していくか、主体的な戦略が求められると強調した。最後に、買収後の円滑な経営に不可欠な人材について、「自社長期戦略と対象会社の自社グループにおける位置づけを現地のキーマネジメントと共有し、相互に信頼関係を構築することが重要」と語った。
特別講演I
【ASEANを軸としたグローバル戦略】
ASEANにおけるダイキン工業の成長戦略
ダイキン工業の冨田次郎氏は、空調機売上世界ナンバー1(富士経済「グローバル家電市場総調査2017」調べ)を達成したグローバル戦略を語った。同社は、海外売上比率を2000年の24%から16年に76%に伸ばして国内と海外の比率を逆転させ、売り上げも3・8倍に拡大した。国ごとのニーズに対応する現地密着型の開発と、生産の最寄り化による供給リードタイム短縮、溶接などの技能伝承を体系化した人材育成を進めてきた。エアコン購買層が急増するアセアンでも、同様の手法が成功。2010年から16年までに売り上げを6倍以上に伸ばしたベトナムでは、高い個人向け電気料金を抑えるために省エネ性の高いインバーターエアコンを中間層も手が届く価格で提供。販売を安定させる独自の専売店網も構築した。タイの生産拠点から輸送していた商品の供給を速めるため、ハノイ新工場を建設中。設備をモジュール化し、需要変動に柔軟に対応できる生産ラインを構築するとともに、IoT活用による安定操業を目指す。工場従業員、販売店スタッフの研修センターも併設して人材育成に注力する。また、地球環境への貢献の観点から環境負荷の少ないタイプの冷媒の普及を世界中で推進。特許の無償開放のほか、各国政府等へのロビー活動にも積極的に取り組み「これからも地球にやさしいモノづくりをリードして、アセアンの成長に貢献したい」と語った。
基調講演II
【地域統括、ガバナンス】
地域統括会社による「攻め」のガバナンス構築
KPMGの吉本諭治氏は、日系企業の地域統括会社の課題を紹介した。急成長するアセアンは、困難さを増す中国の事業環境や、拡大する現地消費市場を背景に、その重要性が高まっている。その中で、アセアン地域統括の役割は、域内グループ会社のガバナンス強化から、M&Aや合弁事業の事業統合や、新規事業立ち上げ等の成長への直接貢献、ローカル人材育成に変化。役割と権限を整合させるため、戦略に応じて本社、地域、各国をバランスさせた意志決定機能の前線化・最適化を進めることを提案した。また、デジタル戦略については、人件費が安いアセアンでは、コスト削減を目的とするのではなく、たとえば、業務品質向上や不正行為防止のための自動化推進、小売業への参入規制下でエンドユーザにリーチするためのツール導入が有効と指摘。イノベーション創出には、シンガポールのスタートアップ企業群のテクノロジーを活用する可能性に言及した。人材育成については、日本企業では、ローカル人材は頑張っても経営層に入れないという認識が強く、評価や昇進もあいまいと見られている結果、優秀な人材を確保し続けることが難しい現状を指摘。人材プールの見える化、世界共通のジョブディスクリプション(人材要件定義)の策定、キャリアパスの明示などの必要性を強調。「まず、日本以外の国で世界共通のタレントマネジメントを実践すべき」と訴えた。
特別講演II
【現地マネジメント、ビジネスの創造】
長瀬産業のASEAN戦略
―変革、成長、そして飛躍へ
長瀬産業の佐藤幸平氏は、グループのアセアン地域における基本的な戦略について説明した。同社は、1832年創業の化学系専門商社として発展、製造・加工や研究開発機能を付加し、現在は、投資・研究・商社・製造・海外・物流の6機能を生かした「ビジネスデザイナー」として、新たな価値提供を行っている。アセアンでも、これら6機能を生かし、ビジネスやエリアの拡大を推進。グローバルネットワークを生かし、日本から輸出していた化学品の供給源を中印韓台も含めて多様化。インドにラボを設けて、機能性材料を用いた塗料の配合処方を現地ニーズに合わせて開発。インドネシアでは、当社グループ製造会社の林原が量産化した機能性食品素材・トレハロースを使った、現地向けの食品レシピ、試作品作り。フィリピンでは、当社グループの販売現地法人がバッジ型の放射線測定器を使い、病院の放射線検査技師の被ばく量測定サービスを提供している。今後は、地域統括組織の設立を検討し、管理業務の標準化、現地スタッフの育成、本社社長らが現地訪問してビジョンなどの浸透を図るなどマインドセットの徹底を進めながら「アセアン地域が主体性を持った新規事業を創出し、アセアンのビジネスデザイナーになることを目指したい」と語った。
ショートスピーチ&ディスカッション
徹底検証!
ASEAN市場攻略の鍵となる、現地マネジメントの実際
印刷インキや有機顔料、合成樹脂を手がけるDIC(旧大日本インキ化学工業)の猪野薫氏は、アセアンの魅力について、成長の伸びしろが大きいことなどを挙げ、カスタマイズした国内向け製品とは別に、汎用的なアジア戦略品でボリュームゾーンを狙う戦略を例示した。そのためには現地ニーズを取り込むマーケットイン型の開発、製造、販売を行なうことが有効と考えており、その体制はすでに整えた。現在、該社はアジアパシフィックを含めて、事業軸と地域軸のマトリクス経営体制を敷いており、地域統括会社には本社製品本部長の地域代表を置いて戦略執行に当たらせている。地域統括会社の管理部門は財務・人事等のサービスを提供してガバナンスを支える。ローカル人材を複数の現地法人で社長に登用するなど、ダイバーシティマネジメントも推進。「マトリクス経営は思った以上に煩雑になる傾向もあるが、地域の声を無視すると事業戦略を誤ることになる。縦軸横軸の交点では、良い意味での摩擦軋轢が発生することも多い」と述べた。
インドネシアで1970年代から育児用ミルクの日本からの輸出、80年代からライセンス供与の形での現地生産に取り組んできた森永乳業の椎野工氏は、毎年、日本の約4.5倍の450万人が出生するインドネシア市場の大きさを魅力に挙げた。国内市場依存度が高い食品業界の中では、早い時期の進出で、2004年には合弁の製造会社を現地に設立。インドネシア人スタッフは知識習得に熱心で、品質管理水準は日本と同等以上になっており「文化的にも雰囲気や相手の感情を大事にする点などが日本と近い」と、仕事環境の良さを強調した。優れた現地パートナー企業を得たことで、難しいとされる現地の労務管理も問題は起きていない。人材育成については「乳児が口にするものだけに失敗は許されないという価値観の共有が大事。金銭面だけでなく、一体感やモチベーションを大事にすべきです」と語った。
テルモの荒瀬秀夫氏は、多様性の高いアセアンでの戦略を説明した。同社は、全事業を3つに分け、各事業がグローバル全体を見ることを基本にしているが、アジアでは、シンガポールの地域統括会社とのマトリクス制を採用。事業は生産や商品マーケティング戦略、地域は管理、販売・流通をそれぞれ受け持つ。マーケティングは、各地域に合わせた戦略にするため、地域のオペレーションからのフィードバックで戦略を再構築するサイクルの迅速化を意識。医師研修支援など医療インフラ整備にも取り組み、現場に入り込む戦略で、差別化を進める。事業環境の変化に素早く対応できる機敏な組織づくりにも注力。地域イベントに血圧測定ブースを出展して、社員の意識を高めるなど、付加価値を自ら考える企業文化の醸成に取り組む。今後は「拡大する中間層にフォーカスした戦略にシフトしたい」と語った。
KPMGの藤井氏は、人材について、仕事に求めるものは国ごとに異なり「民族性を考慮すべき」とコメント。管理人材が不足する国には、アセアン域内で補う異動を促した。
モデレーターの明治大学、大石芳裕氏は「多様なアセアン全体に通じる一般性を見つけ、アレンジして各国に適用する、一般化と特殊化のいいとこどりが必要」と指摘。アセアンから出てきた競合企業との協力も考慮するよう示唆した。最後に「プレゼンスは低下しているが、日本のブランド力はまだ高い。それを各社の力につなげ、復権を」と訴えた。