芸能人の移籍トラブルが起こりやすい事情 プロ野球などと同様に特殊な契約が身を縛る

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会社員であれば、勤めている会社を辞めたくなれば自由に辞められますし、その後どの会社で働くかも原則として本人の自由です。もちろん、会社が「あなたはトレードになった」などと言って勝手に次の勤務先を指定することもありません。

プロ野球界でこのような特殊な慣行が成り立っているのは、選手全員がサインをしている野球協約と統一契約書があるからです。野球協約は、選手は各球団と所属契約をするとしながらも、広くはプロ野球機構という興行主体と契約するような形を取り、プロ野球という興行を盛り上げるために、A選手はこの球団で役割を担い、B選手は別の球団で役割を担うという意味を持たせています。

プロ野球選手に決定権はない?

プロ野球機構が雇い主である会社で、各球団はその中の部署にすぎないのだから、どこの部署(球団)で働かせるかは会社が決め、選手に決定権はないというニュアンスです。

もっとも、これは例え話で、実際には選手は各球団と契約をしています。移籍の自由をまったく認めないのは問題があるということで、機構が選手会と話し合った結果、一定の期間一軍で活躍した選手にFA(フリーエージェント)権を認めたり、ドラフトに逆指名(希望入団枠)の制度を導入(現在は廃止)したりした経緯があります。しかし、契約期間が満了すれば自由に移籍が認められるプロサッカー選手(Jリーガー)とはいまだに大きな違いがあるといえます。

芸能事務所は、芸能人を売り出すためにボイストレーニングやダンスを習わせたり、住む所やマネジャーを手配したりするうえ、多額の宣伝広告費をかけ、多額の養成費を投資しており、自由な移籍を認めては成り立たないといいます。プロ野球球団は、選手が自由に所属球団を選べるようになると、資金力のある球団に戦力が偏り、ペナントレースが成り立たなくなるといわれます。

公取委の判断によっては、これまでの流れが変わるかもしれません。そもそもファンあってこその芸能界であり、プロスポーツです。芸能事務所やプロ野球機構が描いた筋書きを見せられるのではなく、本当に力のある芸能人やスポーツ選手が、その技能を存分に発揮できる制度や環境こそ、ファンが求めるものであることは間違いありません。

三谷 淳 未来創造弁護士法人 代表弁護士

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みたに じゅん / Jun Mitani

慶應義塾大学法学部法律学科出身。2000年弁護士登録後は横浜の大手法律事務所に勤め、数多くの裁判を手がける。このころ旧日本軍の爆雷国家賠償訴訟に勝訴し、数々のマスコミに取り上げられる。しかし、2006年に独立し三谷総合法律事務所(現・未来創造弁護士法人)を設立すると、裁判はたとえ勝訴しても、時間がかかり、依頼者に強いストレスをかけ、結果的におカネも回収できないケースが多いことに気づき、徹底的に交渉術や紛争予防法を研究する。1日5件、週に20件、年間1000件の交渉を実践し、「日本一裁判しない弁護士」と呼ばれるようになる。紛争の早期円満解決や予防は、トラブルを抱えるクライアントだけでなく、企業経営者からも絶大な支持を受け、現在では「経営を伸ばす顧問弁護士」として地域、業種を超えて全国各地の上場企業から社員数名の企業まで100社近くの顧問弁護士を務める。

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