エンパワーメントで実現
新時代の働き方改革
研究所のエグゼクティブ アドバイザーには、竹中平蔵氏(東洋大学教授、慶應義塾大学名誉教授)を迎えた。就任にあたって同氏は「議論のみならず、一人ひとりの行動を支える存在にしたい」と抱負を語った。今後の活動に大いに期待がかかる。
第4次産業革命を超えた課題”解決”先進国へ
第4次産業革命の進行のなか、働き方改革の重要性が増しています。
生産という行為は、資本と労働力を組み合わせて、そこに技術を絡めるというものでした。しかし、人工知能(AI)やビッグデータといった新しい存在が出現してきたことで、そうした考え方の土台が大きく変わりました。ITは単に生産コスト削減の手段でなく、ITネットワークが知識やビッグデータを集積して新たな市場を創造する時代になりました。
この大変革は、2011年の独ハノーバー・メッセで発表された「インダストリー4.0」から始まったと考えられています。2012年には米英政府によるビッグデータの整備が始まり、AIのディープラーニングが飛躍的に進歩しました。
一方、この頃の日本は、東日本大震災からの復興を進め、デフレ克服に力を注ぐ、というリアクティブな動きが主なものでした。政府の成長戦略で「第4次産業革命」が本格的に打ち出されたのは2016年になってからであり、世界とは社会の変革に対する認知が4年ほど遅れていると言えます。
では、これは悲観すべきことなのでしょうか? 私はそうは思いません。
幸いなことに、日本にはこれまで培ってきた「付加価値をつける元となるパーツ」が揃っています。ただ、組み合わせて付加価値をつける、という問題意識が乏しく、実用化に向けた行動を起こす際には、岩盤のように立ちはだかっている各種規制や、さまざまな慣行を乗り越えなければなりません。
先月決定した政府の成長戦略では「レギュラトリーサンドボックス」(規制の砂場)という、新たな規制改革の枠組みを導入することが盛り込まれました。フィンテックやヘルスケアなどの分野で「規制があるから認めない」と言っていては画期的なベンチャーが育ちませんので、「やってみながら政策形成する」ことを推奨し、イノベーションが加速される環境を整備する方向になりました。
加えて、より重要なことは、社会の原動力となる個人をエンパワーし、働きたいように働くことを可能にすることと、そうした柔軟な働き方を受け入れる度量を持つ企業を増やすこと、そしてこれを支える政策体系を整えることです。単に現状の労働時間を削減するといった部分改良ではなく、個人も企業も、自ら新しい知識を獲得し、働き方を作り替えていくことが不可欠です。
第4次産業革命を超えて、好循環が繰り返され、課題”解決”先進国へと進化を遂げるためには、相当の覚悟が必要である。そう、私は考えています。
たけなか へいぞう/1951年生まれ。博士(経済学)。一橋大学卒業。ハーバード大学客員准教授、慶應義塾大学総合政策学部教授などを経て、経済財政政策担当大臣、金融担当大臣、総務大臣などを歴任。現在、アカデミーヒルズ理事長、(株)パソナグループ取締役会長、オリックス(株)社外取締役、SBIホールディングス(株)社外取締役などを兼職。未来投資会議議員、国家戦略特別区域諮問会議有識者議員