若手は、自分の好きなこと、
得意なことを追求するべき
―― 人工知能(AI)や、モノのインターネット(IoT)などの言葉を聞く機会が増え、「AIが人間の仕事を奪う」といった声もあります。夏野さんはこれらをどうとらえていますか。
政策・メディア研究科
特別招聘教授
夏野 剛
夏野 結論から言えば、AIが普及しても、人間の仕事はなくなりません。なぜなら、当面AIが得意とするのは、マニュアル化できる業務だからです。収集・蓄積されたデータを基に、もっとも無難な対応を行うのがAIです。なので、AIが出す答えはどうしても平均的なつまらないものになる。
囲碁や将棋の世界で、AIが人間を破ったことが話題になっていますが、これも決められたルールのもとで、膨大な選択肢の中からどれを選べば勝ちにつながるかを選択した結果です。どの分野でも演算が速いほうが有利であることは間違いありませんが、世界にはルールがそれほど明確でないもののほうが多いので、まだAIが活躍できる世界は限られます。
たとえば、よくAIに代替されるといわれるアパレル販売員。まず店舗に来たお客さんの顔や格好を見ますね。そのうえで話してみて、どんなものが欲しいか探るわけです。今の格好に似合うものなのか、気分を変えて新しい服に挑戦したいのか。そうやってインタラクティブに本人も気づいていないニーズを引き出していきます。
つまり、ビジネスの現場では、顧客の潜在的なニーズを探りながら、自社の最適な製品やサービスを提案していくといったことが求められます。そのためには、面前の相手が考えていることや感情まで読む必要がある。しかも、同じ人でも気分によって選択が変わる。このような複雑な判断は、AIでできることではありません。
―― では、人間の働き方は変わるのでしょうか。
夏野 私は、AIが人間の仕事を奪うというよりはむしろ、AIの進化により、人間は、人間らしい個性を出して、人の心を打つような仕事に集中できるようになると考えています。
これからの仕事は2つの「ソウゾウ」を追求することになるでしょう。1つはimaginationの「想像」、もう1つはcreationの「創造」です。今までのように、人間は定型的な業務を属人的な労力でこなすだけでは、付加価値を生み出すことにはつながりません。AIに代替されるからです。自社がどこで価値を生み出すか、そのために、何を機械にやらせ、何を人間がやるべきか、経営者も現場の管理職も考えなければならない時代になっています。
その一方で、若手の人たちは、市場やプライベートの環境が変化する中で、自分自身の「拠り所」、言い換えればビジネスシーンにおける「武器」となるものを持つことが大切です。そのためには、自分の好きなこと、得意なことを追求するべきです。会社から指示されたからといって、苦手なことを続けるよりは、得意なことをやったほうがやりがいも大きく、「武器」にも磨きがかかるからです。
―― IT技術の発達により、就職活動や転職活動も変わりつつあります。一方で、ネット上の情報の質が問われているように思います。
夏野 インターネットがない時代から、情報は玉石混淆です。週刊誌は今も昔も裏取りしていない情報を流すことが多々あるでしょう。当たり前ですが、メディアで流れている情報が必ずしも正しいとは限らない。
インターネットで興味のある企業を検索すれば、ポジティブ、ネガティブ両面の情報が自宅に居ながらにして入手できるようになりました。ただ、それらを鵜呑みにするのではなく、情報を総合して、自分自身で評価をする必要があるでしょう。
終身雇用、年功序列はすでに崩壊していますが、今後はますます転職が当たり前になります。転職がステップアップになりますし、逆に、転職しないことがリスクになることもあるでしょう。シンギュラリティ(技術的特異点)の時代が到来し、この20年間で起こってきたITの革新がさらに大きな規模で加速して起こるわけですから。
大げさでなく、わずか数年で市場が大きく変化するんです。そこで、「上がつかえているから」という理由で、興味のない仕事に5年、10年と携わっているのでは自身の成長のチャンスを逸することになります。
「IT苦手なんだよね」とか「このアプリどうやるのかわかんない」なんて開き直っている管理職のおじさんたちにはもう退場していただきたい。そういう人に限って「俺たちの時代はな」なんて武勇伝を語りたがりますが、もう時代はとっくに変わっていますから。
経営者も例外ではありません。ITに疎く、「シンギュラリティが恐い」と言ってしまう経営者のもとで働いているなら、すぐにでも転職を考えたほうがいい。
日本の人口は減っていても、
世界トップレベルの若手はゴロゴロ
―― 転職希望者にとっては、企業の将来性などが気になるところです。企業選びで重要なポイントはありますか。
夏野 将来性のある企業というと、事業の安定性をイメージするかもしれません。しかし、経営環境の変化のスピードが増す中ではむしろ、過去の成功事例を引きずるような旧態依然とした手法は早晩、通用しなくなります。
将来有望な企業は、変化への対応能力があります。変化があるということは、社員にチャンスがあるということです。私自身も、変化が好きで、その都度新しいフィールドを求め、現在に至っています。迷ったら、変化が起こりそうな企業を選ぶべきです。
ただ誤解してほしくないのは、変化への対応力は企業規模では決まらないことです。大手企業でもドラスティックに変化に対応しているところもありますし、ベンチャー企業でも保守的なところがある。自分に合った企業をしっかりと探してほしいと思います。
―― 政府も、働き方改革や同一労働同一賃金などの取り組みを進めています。これから、ワークスタイルはどのように変わっていくのでしょうか。
夏野 働き方改革や同一労働同一賃金などが政府主導で進んでいるのは少し残念ですね。国から促されてから始めるのではなく、民間企業が率先して取り組むべきテーマだと思います。かつての高度経済成長期であれば、20代で結婚して子どもが産まれて家を買うというのが標準でした。今では、50代で独身という人も増えています。親の介護のために転職をするという人もいます。
多様な人の多様な働き方があって、しかもそれが刻々と変化します。ライフスタイルに応じて、仕事を選ぶ人が増えてきます。中には、趣味やプライベートを優先するという人も出てくるでしょう。

―― 「いい会社」の定義は一人ひとり異なるということですか。
夏野 そのとおりです。今の時代では価値観も多様化していますから、自分の価値観に合う働き方と仕事を選べばいいんです。前述したように「このままでは好きなことができない」「変化がない」となったら、転職して新たなステージを目指すべきでしょう。
今の日本の若い人たちは、人口は減っているにもかかわらず、世界で活躍しています。アスリートやクリエーターを見てください。世界トップレベルの人たちがゴロゴロいるでしょう。ビジネスパーソンたちにも、ぜひ変化を楽しんで、チャレンジしてほしいと願っています。
(この続きは「DODA転職フェア」で)
