統合報告フォーラム
「統合報告」と経営戦略
― 開示と対話の好循環を実現し、企業価値を高める ―
【特別講演Ⅰ】
投資家が統合報告に期待すること
大和住銀投信投資顧問 窪田 真之氏
窪田氏は投資家の立場から「開示される企業の財務情報のレベルは相当に上がったが、欠けている非財務情報もあり、企業分析ではまだ迷うことも多い」と語った。日本企業の株価はPBR1倍割れも目立ち、欧米に比べて低迷しているが、その理由として簿外債務や資産価値毀損のほかに「負の無形資産」の解析も必要という。
窪田氏は、非財務情報で注目する点として、人、モノ、金のうち人の情報が不足がちになっていることを指摘。企業の未来像を検討するため、従業員の年齢構成、男女別人数などを開示し、役員や社外取締役はスキルや使命感について自ら語ることを求めた。
コーポレートガバナンス関連では、議決権行使に役立つ情報を重視。成長戦略・経営計画では「今の時代、成長分野もあればリストラが必要になる事業もあるのが当然なので、成長と構造改革、両方のストーリーについて触れて欲しい」と述べた。株主還元策については、長期投資家は配当政策への関心を高めているとしたうえで、自社の財務戦略の見地から、自社株買いか、増配か、をフェアに判断して説明すべき、という考えを示した。
最後に、窪田氏は「アニュアルレポートは長期的な構造変化にスポットを当てている点が高く評価でき、事実上の統合報告書として進化している」と、今後の統合報告の充実に対する期待を込めた。
【特別講演Ⅱ】
オムロンの企業理念 経営と統合レポート
オムロン 安藤 聡氏
安藤氏は、企業理念経営を推進する観点から、企業が統合報告に取り組む意義を説明した。オムロンは「企業は社会の公器である」との基本理念の下、株主や取引先等との誠実な対話を通じて信頼関係を構築する“ステークホルダー経営”を宣言し、経済的価値と社会的価値をバランス良く高めて長期的な企業価値の最大化を目指している。
安藤氏は「財務・非財務情報の関連性を具体的に開示することで経営理念や企業の本源的な価値を理解してもらうことができる。また、統合レポート作成にはコントロールタワーが極めて重要であり、各部署が作成したコンテンツを切り貼りするだけでは本当の統合報告とは言えない」と指摘した。
そのうえで、安藤氏は「昨年初めて発行した統合レポートではステークホルダーにわかりやすく経営の現状を伝えることを最優先し、特集を多用した。同時に、長期視点の経営による成長性や有事を想定した情報開示によるガバナンスの信頼性を訴求した」と説明した。
最後に、本年7月末に発行予定の統合レポート2013に関して「企業の将来像を想起してもらえるようにオムロンらしい内容と表現方法にこだわりたい。より多くの日本企業が統合レポートにチャレンジし、日本企業特有の長期的な企業価値創造プロセスをアピールすれば、日本企業に対する評価は必ず向上する」と結んだ。