統合報告フォーラム
「統合報告」と経営戦略 ― 開示と対話の好循環を実現し、企業価値を高める ―

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【基調講演】
持続的な価値創造経営と企業報告のあり方
一橋大学大学院 伊藤 邦雄

一橋大学大学院
商学研究科 教授
伊藤 邦雄氏

伊藤氏は、世界で最もイノベーティブという評価と持続的低収益というパラドックスに陥った日本企業の現状について「本当に企業価値にこだわって経営してきたのか」と問いかけた。

日本企業はIRで経営指標を示しながら、社内では指標に言及しないといった使い分けをする“二枚舌経営”、中期経営計画未達の多発による市場の経営能力不信、トップの女房役としてのCFO人材の不足、経営の短期志向化などの問題点を挙げ、「経営能力を磨き、進化させるべき」と語った。

かつて、全社的に強みを伸ばし、弱みを克服することで、世界一の国際競争力を誇った日本的経営を「企業競争力2.0」とした伊藤氏は「失われた20年の間の国際競争力急落は、企業競争力2.0 が壁に突き当たったことを示す」と指摘。総合型経営、本社機能の肥大化などの問題点に対し、事業ユニット強化、本社のスリム化を進めたものの、部分最適が蔓延する結果になったとして、新たな企業競争力3.0を構築する必要性を訴えた。

伊藤氏は「統合報告は、自律全体最適化モデルを目指す企業競争力3.0に必要な横断的・統合的な発想と取り組みを誘発する。社内各部署の対話の場を提供し、縦割り組織に風穴を開け、広い視野を持った人材育成につながることで、企業価値の持続的創造に向けた経営革新を実現するための重要な原動力となる」と述べた。

【講演】
日本の企業は統合報告とどう向き合うべきか
~投資家と企業の対話を促進するために~
あらた監査法人 安井 肇

あらた監査法人
あらた基礎研究所
所長
安井 肇氏

安井氏は、統合報告は「短期的経済価値追求に走って市場を崩壊させたリーマンショックへの反省から、金融資本市場の安定と持続可能性に貢献することを目的に生まれた」と語る。経済同友会の企業白書でも、収益力とサステナビリティへの貢献の両立が「持続可能な経営」の本質とされ、統合報告書は、その入り口として言及されている。

特に、長期志向で、天災やサプライチェーンなどのリスク管理意識が高い日本企業は、そのためのコストが高くなりがちなので、それらを含めた非財務情報を適切に投資家に伝え、リスクマネーの供給を受け続ける必要がある、と統合報告の意義を強調。拡大する情報開示や、グローバル化によって多様化する従業員の意識のベクトルを合わせ、複雑な国際分業で難しさを増すガバナンスを強化するためにも統合報告が有用、という見方を示した。

統合報告に取り組む際の実務上のポイントとしては、重要な企業情報の社内共有といった目標を明確に定めて着実に実利を得る、意図どおりの意思伝達やユーザーフレンドリーな開示の仕方を目指してステークホルダーと対話を継続する、ロングジャーニーと心得て進化を続ける、の3点を挙げた。安井氏は「企業報告の見地だけでなく、変化の激しい経営環境を企業が一体感を持って生き抜いていくための経営、という意味で、統合報告の活用を検討すべき」と述べた。

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