ビッグデータの活用で
ビジネスチャンスが
生まれる
―「ビッグデータ」という言葉に触れる機会が増えています。
元橋 ビッグデータに明確な定義はないのですが、その特長は三つのVで表すことができます。一つめは「Volume(量)」、データの量が膨大だということです。たとえば、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などでは、テラバイト(テラは1兆)クラスのデータが日常的にやり取りされています。ほかにも気象情報や位置情報などをはじめ、日々、さまざまな場所で膨大な量のデータが生まれ、記録されています。二つめは「Variety(多様性)」。テキストや数値だけでなく、写真や動画、たとえば音声ならばその口調というようにデータの種類が実に多種多様だということです。そして、三つめが「Velocity(新鮮さ)」。商品の売り上げ状況を瞬時にデータベースに反映する、あるいは人間の行動をセンサーなどでリアルタイムに把握するなど、その鮮度も一つの特長に挙げられています。
―ビッグデータをビジネスに生かしている例はすでにあるのですか。
元橋 カメラを内蔵した飲料自動販売機をご存じでしょうか。利用者の画像を分析して性別や年齢を推測するとともに、天候、気温、時刻などにより、推奨商品を表示しています。また、ネット上では、顧客の購入履歴や閲覧履歴をはじめとする膨大なデータを活用し、「おすすめ」商品を提示するサービスがありますが、こうしたビジネスモデルそのものがビッグデータの活用と言えます。
今後もさまざまなビジネスが生まれるでしょう。
BtoBの企業が
成功している要因は
―ビッグデータを経営に生かしている例というと、大手小売業などBtoCの企業という印象があります。製造業などBtoBのビジネスでも、ビッグデータを活用できますか。
元橋 それは大事なポイントの一つです。日本のものづくり企業の多くは、自動車産業などサプライチェーンに組み込まれて成長してきた歴史があります。しかし、グローバル化の進展などにより、今までの常識が通用しなくなっています。
とりわけ、日本の産業競争力を支えている中堅企業は、圧倒的にBtoBの割合が多い。私は、高い競争力を発揮している中堅企業20社余りをインタビューした経験があるのですが、そこで各社共通の成功の要因として見えてきたのは、いずれの経営者も、自社の納入先のその先にまで視野を広げ、マーケットの全体像を理解し、将来を予測した取り組みを行っていることでした。このように、顧客の顧客、すなわちBtoBtoCの動向までを考慮して経営戦略を立てるためにも、ビッグデータの活用が必要になっていくのではないでしょうか。
―ITを経営に活用しようとする企業は少なくありませんが、成功している企業とそうでない企業の差はどこにあるのでしょうか。
元橋 成功している企業は、マーケットや顧客のニーズを理解し、「自社は何をすべきか」を考えることに力を注いでいます。そのためにITを活用しているのです。
一方、日本の多くの企業では依然として効率化のためにITを導入しているところが多いようです。一歩進んで、課題の「見える化」に取り組んだとしても、次のアクションがなければ、課題が見えただけになってしまいます。大切なのは、データを活用し、意志決定に役立てることです。
経営トップが率先して
データ活用を
進めることが重要
―日本では、経営の意志決定にデータを活用する企業がまだ少ないとのことですが、その理由はどこにありますか。
元橋 日本の経営者は、長年自社や同じ業界に携わってきた人が多く、経験が重視されてきたためでしょう。
米国の企業では、経営者が異業種から招かれることが少なくありません。M&Aも日常茶飯事です。このため、的確な経営判断のためには、さまざまなデータが不可欠となります。また、経営者はステークホルダーに対して、自分の判断の根拠を説明しなければなりません。ここでもデータが活用されます。
日本の企業においても、グローバル化の進展など、経営環境が刻々と変化しています。これまでの経験が通用しない場面も多くなるだけに、データに基づいた判断を求められる機会が増えてくるでしょう。
―データ活用により新たなビジネス価値を創出するためには、どのような点が大切ですか。
元橋 経営トップが率先してデータ活用を進めることです。中期経営計画の策定や発表などにおいても、データを分析した結果により意志決定していることを明確に伝えます。さらに、社内にデータを活用する風土をつくるとともに、データ活用能力の高い人材を育成することも大切です。
日本企業には高い品質やコミュニケーション力など、世界に誇れる強みがあります。これにデータ分析・活用力が加われば「鬼に金棒」です。ぜひ取り組みを進め、国際競争力を高めてほしいと願っています。