セミナーレポート

食品業界の小売・卸・メーカーが挑む ロジスティクス高度化の今

拡大
縮小

事例講演Ⅱ
「日本アクセスにおける最近の物流事情」

日本アクセス
取締役専務執行役員
広域営業部門長
中井忍氏

次に大手物流企業の事例を見てみよう。最近の物流事情として中井忍氏は、「わが社では全国472拠点、毎日約8500台のトラックが全国を走っている状況である。ロジスティクスにおける現場の課題としては、物流コストの高騰、人手不足が挙げられる。他方、スーパーマーケットでは品出しに時間を要しているという課題がある。物流効率化のためには、物流コストの約50%を占める配送費の削減がターゲットになる。配送費削減のため、配送時間枠、店着時間枠の緩和をテーマにシミュレーションを実施しているところだ。時間枠を緩和しさえすれば、トラックの台数は減る。実際、人件費も下がるという効果もあった」と話す。

もう一つの課題が庫内人件費だが、RFIDタグで、カゴ台車の管理作業が合理化されることにより作業の低減ができているという。

「ハンディ型タグリーダーを利用することで、棚卸し作業もスピーディーになる。カゴ台車の所在が明確に把握できるうえ、誤積込のチェックもできる。カゴ台車の所在把握により、流出や紛失の防止につながる。リライタブルレーザシステムは、レーザー光により、非接触でラベルの表示書き換えを行う印字プロセスだが、約1000回の書き換えが可能だ。人手いらずの印字システムでラベリングに係る作業負荷をゼロ化できる。製造・出荷ラインの自動化・省人化に役立つうえ、少子高齢化に伴う雇用対策にも対応できる」と述べた。

今後は品質確保、納期、店舗オペレーションを組み合わせた効率化を目指し、生産から消費まで一貫した物流網を構築し、お客様起点の物流、全体最適の物流体制を実現するという。

事例講演Ⅲ
「食品メーカーによる物流関連の連携の動き~持続可能な食品物流の実現を目指して~」

味の素
物流企画部部長
堀尾仁氏

一方、食品メーカーによる物流関連の連携の動きについて堀尾仁氏は、「やはりドライバー不足、eコマースの拡大、社会的責任の増大が背景にある。その結果、物流コストの上昇、荷主責任の明確化といった食品物流の課題が発生している。これまでの食品メーカー物流は、企業ごとに個別化して発展してきたが、環境激変により顕在化してきた社会的な課題を解決するには限界がきている」と指摘した。

そこで生まれたのが、F-LINEだ。これはさまざまな食品物流の課題を共有化し、解決に向けた議論のできる場「食品企業物流プラットフォーム」のことを指す。食品メーカー6社で日本全国におけるF-LINEを具現化させるべく検討を行う会議体を構築した。基本理念を競争は商品で、物流は共同でとして、より効率的で安定した物流力の確保と食品業界全体の物流インフラの社会的・経済的合理性を追求する。

実際、16年4月から「納品時間の短縮」「配送の効率化、平準化」を目的に北海道でテストを始めた。結果、配送件数は約16%減、4トン車比率も減少し、平均積載率が向上するという効果が出ている。荷受者の生産性向上につながる納品書も共通化。共配稼働マネジメントの標準化として、共通したKPIも掲げている。堀尾氏は、これまでの取り組みでわかったこと、として次のように強調する。

「共配はゴールではなく、スタートラインであること。今後はモノの動きの整流化をサプライチェーンおよび食品業界全体に波及させることが必要である。中長距離幹線の再構築ほか、食品メーカーから見た製配販提携の整理・体系化を進め、やれることからやってみることが重要だ。サプライチェーンの全体最適を目指し、製配販それぞれがWin-Winとなる活動を推進する。業界におけるダブルスタンダード、トリプルスタンダードを避け、外部団体、行政当局との連携も図っていく。そのために食品メーカー8社でSBM会議(食品物流未来推進会議)も発足させた。製配販の課題をまとめたテーブルを共有化し、言葉の定義も論議する。課題解決を得意先ごとの個別対策とせず、業界団体、行政への働きかけを実践することで、食品業界の標準化を目指していく」。

このように食品物流の新しい取り組みは、すでにさまざまな方法で始まっている。日本企業がグローバルで勝ち残っていくためにも、ロジスティクスの再構築がいかに重要なのか。今後も新たな事例を踏まえつつ、企業戦略の一環として取り組むことが急務となっていると言えるだろう。
 

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