食品業界の小売・卸・メーカーが挑む ロジスティクス高度化の今

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基調講演
「わが国の食品物流の高度化の課題と新潮流」

上智大学
経済学部経営学科
教授
荒木勉氏

一方、国内の食品物流の高度化の課題と新潮流についてはどうか。物流事情に詳しい荒木勉氏は、「2013年にドイツで本格的に始まったインダストリー4.0は、これまでの大量生産と異なり、マスカスタマイゼーションと言われる。いわゆる、IoTの活用によって受発注の仕組みや生産の効率化を図ることで、個別大量生産、つまり顧客一人ひとりの好みや要望に合わせた製品の生産のことをいう。これは加工の途中でも設計変更できる考える工場、いわばスマートファクトリーを実現するものである。生産ラインにリアルタイムに指示を出し、消費者ニーズに応える。まさに、製造業のサービス化と言えるだろう」。

他方、国内でも食品ロジスティクス4.0と言われる時代が近づいていると荒木氏は指摘する。だが、ドイツや米国の企業と比べ、取り組みは少し遅れているようだ。IoT社会の実現に向けて、今後は自動運転、3Dプリンター、人工知能、ビッグデータなどと組み合わせて、海外勢を追い上げることが至上命題となっているという。

「特にデータ作成と入荷検品の効率化が食品流通の課題。QRコード、ICタグの活用は進んでいるが、実態はまだ追い付いていないように見える。旧態依然とした状況の中で、ドライバー、パートの不足といった労働力問題が追い打ちをかけている。今後は、生産、営業、小売の情報を共有するためにも、重要なポイントとなるのが需要予測だ。これを突破口にして、サプライチェーンの情報共有を実現し、IoTを基盤としたロジスティクス4.0を構築すべきだ。最終的な目標は顧客満足度の向上にある。そのためにいかに情報を生かしていくのか。新たな視点での経営戦略の構築がますます重要になってくる」と分析した。

事例講演Ⅰ
「生協宅配物流の課題と取り組み」

生活協同組合ユーコープ
統合マネジメント本部
本部長代行
生産物流・業務改革担当
岡崎淳氏

ここで個別企業の具体例を見てみよう。まず生協宅配物流の課題と取り組みについて岡崎淳氏は、「現在、われわれの宅配事業では約2800品目の商品を届けている。顧客にはカタログを毎週配布し、OCR用紙、ネット注文、電話注文でそれぞれ受け付けるという仕組みをとる。宅配は週5日、土日なしでワンサイクル。配送センターは32拠点あり、一日あたり全体で約1500~1600コースとなる。1コース約50~90件の配達で、一件当たり約6.8分で配達している。これらを自前の物流網でやっていることが大きな特徴」と紹介。

岡崎氏は、そうした宅配物流を取り巻く大きな環境変化として、人件費の高騰・採用難を挙げる。また、土地のミニバブル化で倉庫家賃の上昇が目立つという。

「通販は伸びているが、自社だけの対応では限界がきている。配送効率を上げるには、荷物の密度向上、共同配送ほか、通販物流やコンビニエンスストアとの提携が必要になる。現在、顧客の要望としてネットスーパー型宅配、移動販売、弁当宅配などの事業があるが、今後は、自前の物流を維持しつつ、上流から下流まで全流域での共同化を模索していく。また、新人でもすぐに作業ができる仕組み、省人化できる機器・システム開発が必要になってくるだろう」と語った。

ショートプレゼン
「食品ロジスティクス4.0を支える物流施設のご紹介」

では、食品ロジスティクス4.0を支える物流施設はどうなっているのか。

野村不動産
都市開発事業本部
物流施設事業部
中村秀人氏

中村秀人氏は、「食品物流センターを取り巻く背景として、ライフスタイル、雇用の変化に応じた新しい流通網に対応できるような都市型食品物流センターが求められている。特に高齢者が増える都市部では配達需要に応えるため都市型の食品物流センターを構築する必要がある」と話す。

野村不動産では今後、新たなタイプの物流施設の展開を目指していく方針だという。

「物流施設では、首都圏を中心に28棟の開発・運用実績がある。効率のよい、無駄のない施設をつくるためのテナントニーズの収集・蓄積を進めている。荷主を見据えた立地選定と施設計画。施設のスペックも工夫し、効率的な保管レイアウトを実現。さらに、余剰容積率を活用し、メザニン床を設置することにより、保管・作業スペースを拡大。アメニティ設備を充実させ、多数の人が快適に働くための良好な環境を提供するなど、幅広いテナントと関係を構築したい」と述べた。

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