31歳がハマった｢結婚願望ゼロ彼氏｣という罠 東京カレンダー｢新･婚活事情｣<5>

交際を始めた当初から、彼とはあまりに順調な関係でしたので、私は当然のように、暫くすれば彼と結婚をするだろうと思っていました。

私は、人並みの結婚願望と出産願望を持っている女です。昔からぼんやりと、30歳までには結婚したいと思っていました。彼との付き合いが1年程経過した頃だったでしょうか。たまたま都内ホテルでアフタヌーンティーのデートを楽しんでいたところ、結婚式の新郎新婦に遭遇したんです。

「私も、いつか、あんなドレスが着たいな」

ふと、そう言ったとき、彼は幽霊でも見てしまったような、怯えた視線を私に向けました。

「俺、結婚はしないよ……」

二人の間に、それまで感じたことのない、奇妙な空気が流れました。それが私の、辛く苦しい日々の始まりでした。

「君が悪いんじゃない、結婚がしたくないだけなんだ」

彼には、結婚願望がありませんでした。

「皐と結婚したくないわけじゃない。俺は、結婚がしたくないだけなんだ」

彼は家庭環境が複雑で、両親が離婚再婚を繰り返しており、結婚や子どもを持つことに対して、少々トラウマがあるそうです。私たちは本当に仲の良いカップルでしたが、彼の結婚へのアレルギー反応を知ってから、「結婚」の話題はタブーと化しました。

それでも、女として刻一刻と刻まれる年齢のプレッシャーと、平和ながらも単調で変化のない日々に押し潰されそうになり、私から何度か沈黙を破ったことがあります。

「こんなに順調な関係を続けているのに、どうして将来のことを考えられないの？」

「こんなに順調な関係なのに、どうして将来のことを考えて喧嘩をしなくちゃいけないの？」

私たちの議論は、いつも平行線でした。しかし、「結婚」という問題を除けば、私たちは相変わらず喧嘩もせずに、相性抜群の恋人同士なのです。

私が30歳近くなると、周囲の友人たちは、口を揃えて言いました。「そんな男早く捨てて、次へ進んだほうがいい。女として一番良い時期を、中途半端な男に費やしてしまったら、皐の人生が台無しになってしまう」。

友人たちが、私への思いやり故に、このような忠告をしてくれることは、充分に理解できます。このまま結婚できずに、例えば30代が終わってしまうことも考えれらますし、子供を持ちたいという女としての夢を失うかもしれません。