クラウド・コンピューティングが与えるグローバル経営のインパクト 八子 知礼 デロイト トーマツ コンサルティング パートナー
ビジネスモデルや経営者の意思決定に与える影響
いまやIT企業に限らず、あらゆる企業がこのクラウドに注目している。なぜならクラウドはコスト面のメリットを提供できるだけでなく、ビジネスモデル、ワークスタイル、あるいは経営者の意思決定のあり方までも変えつつあるからだ。
特に、グローバル経営においてクラウドは大きな役割を果たす。世界中のどの拠点からも同じデータ、同じアプリケーションにアクセスできるからだ。たとえばファーストリテイリングは、人事システムをグローバルワイドでセールスフォース・ドットコムの基盤上に作った。セールスフォース・ドットコムの基盤は「メニュー」画面から言語を切り替えるだけで、世界数十カ国の言語に対応できる特徴がある。
これまでなら、日本国内向けにまずシステムを作り、その後、海外にロールアウトしていくという「まわりくどい」アプローチを取らざるをえなかった。しかしクラウドが登場した今では、あらゆるものを瞬時に、グローバルへと展開することが可能になっているのだ。いや、むしろビジネスを立ち上げたその瞬間から「フルスケール」する。すなわち、クラウドによって世界共通のコンピューティングリソースを提供することによって、戦略視野を一気にグローバルに見据え、組織マネジメントや人材育成の仕組みも世界展開できるだけのインフラ環境が整っているといえるだろう。こうしたクラウドのインパクトがビジネスモデルや経営トップの意思決定に及ぼす影響は計り知れない。
海外事業の拡大あるいは撤退といった場面でも、クラウドが持つITインフラをスピーディかつ臨機応変に増減することができるというメリットが有効である。従来であれば不確定要素が多いために「Not Go」の判断をせざるをえなかった案件でも「Go」の判断を出せたり、あるいは、検討に時間がかかった案件の意思決定を早めることを意味する。