革新的新薬の創製を推進力にグローバル市場を見据える 小野薬品工業
新薬開発に特化し競争力を堅持
医薬品業界では年々新薬が生まれにくくなっている。新薬創製の成功確率はいまや3万分の1とも言われる一方で、研究開発コストは増大の一途をたどっているという。加えて薬価引き下げやジェネリック医薬品の浸透によって長期収載品からの収益は圧迫されていく。医薬品メーカーが新薬開発を続けていくのは容易なことではない。
そうした中にあって小野薬品工業は、ジェネリック医薬品や一般用医薬品へは参入せず、新薬ビジネスに特化する経営方針を貫き続けている。相良暁代表取締役社長の見解は明快だ。「限られた経営資源を分散させるよりも新薬開発に集中させる方が、競争力を堅持できると考えてのことです」。
もちろん、そうした戦略を選択するだけの基盤がある。つまり、小野薬品工業には新薬開発への特化を可能にする強力な武器があるのだ。それがユニークな化合物ライブラリーと、ライブラリーを活用する「化合物オリエント」という独自の創薬手法である。
小野薬品工業は創業から約300年もの歴史を誇る老舗製薬会社だが、新薬メーカーとしての地歩を確かなものにしたのは1960年代のことだ。プロスタグランジンと呼ばれる生理活性脂質に注目し、企業として世界で初めてプロスタグランジンの全化学合成に成功。脂質領域で複数の新薬を上市し、金融資産4000億円を超える企業に成長を遂げた。しかも、この研究開発で貴重な財産を手に入れることとなる。化学合成の過程で生み出した数々の脂質化合物だ。「製薬メーカーはそれぞれ独自の化合物ライブラリーを持っていますが、私どもの豊富な脂質化合物が競争力の源泉にもなっているのです」と相良氏は明かす。
多彩な化合物ライブラリーに蓄積した脂質化合物の中からユニークな作用を見つけ出し、創薬につなげるのが「化合物オリエント」の手法である。メカニズムの解明されていない化合物は、宝の山とも言える。新たな作用を発見できれば、これまでにない革新的な新薬を創製できる可能性が高まることに加えて、スピーディな開発に寄与できる。
一方で、「自社だけの開発にはこだわらない」と冷静に見定め、早くから国内外の大学や研究機関との共同研究で新薬を生み出すオープン・イノベーションに取り組んできたことも、強みとなっている。「世界最先端の知見を持つ大学や研究機関に自社の研究員を派遣して共同研究を行うことで、ほかに例を見ないような創薬に挑戦できます。先端領域の研究に取り組む一方で、どれほど失敗を繰り返しても愚直に、粘り強く取り組む姿勢が受け継がれています。そうした企業文化を持っていることが、当社の真骨頂」と相良氏。実際、小野薬品工業は、2014年、新たなメカニズムのがん免疫療法薬(一般名「ニボルマブ」)の実用化を達成する。