映画「MOZU」は、なぜ振り切れているのか 羽住英一郎監督「俳優の熱量を前面に出す」

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――現地のスタッフとのコミュニケーションはどうでした?

やはりいちばんの不安は、せっかく国内の撮影でノウハウを積み重ねてきたのに、海外でスタッフの力を発揮できるのか、ということ。海外の景色や空気感はいいんだけど、スタッフの力を発揮できないのなら意味はないかなと。でもその心配はまったくの杞憂でしたね。むしろ意思疎通が難しい感じが良かったですね。

たとえばフィリピンのカースタントチームは、打ち合わせをしても意味がないくらいに危険なんですよ。ただ、そんな中で撮っていく画面が、またいい意味で迫力がある。乱闘シーンにしても、どこまでがスタッフで、どこまでがエキストラで、どこまでがやじ馬なのかがわからない。誰かがどこかから飛び出してくるんじゃないかという緊張感の中、日々、ものすごいテンションの上がった状態でやってきました。ただ、それがあまりにもすごかったので、逆に東京に戻ってくると、ちょっぴり物足りなさを感じてしまったくらいでした。

――キャスト陣からもフィリピンロケは死にそうになったくらい過酷だったというコメントもありましたが。

カースタントを撮っていると、みんなトレーラーにガンガンぶつけてくるんですよ。それは確かにものすごい画が撮れるのですが、ものすごく危ないわけですよ。もっとやればいい画は撮れるかもしれないが、それ以上やると死ぬかもしれない。とはいえ、カメラが安全な位置に下がってしまったとしても、そもそもそういう画を撮りにきたわけじゃない。そのあたりの判断が要求される日々でしたね。

自主規制しすぎるとつまらない

――スタッフの気持ちをのせる方法はどうしているんですか。

昔はあったかもしれないですけどね。今は言わなくても、これじゃ監督が満足しないだろうなというのがわかってきている感じです。もっともっと、と要求することが多いので、最初からマックスパワーで来てくれますね。

――どうやったら羽住監督のようにエネルギッシュにいられるのでしょうか。

今回の『劇場版 MOZU』の撮影は「反省しない」ということがテーマでした。失敗を畏れてはいけないというか。いちばん良くないのは、あの時、あれをやっておけば良かったなと後悔すること。この『MOZU』という作品自体が、振り切ったものなので、どれだけやり切れるか。西島秀俊さんに対しても、普通のメジャー作品や、連続ドラマなどでこんな振り切った主人公をやれることはないのだからどんどんやってくれと言いました。それは『MOZU』だからやっていいんだと。何をやっても失敗ということはないんだからと。

――ここまでやったら怒られるな、といったことは気にしない?

よくタバコのシーンについて自主規制でいわれることはあります。最近はジェームズ・ボンドでさえタバコを吸わないですからね。もちろんタバコを吸いなさいと推奨しているわけではないのですが、いろいろなことを気にして、自主規制をしすぎてしまうのはつまらないと思うのです。

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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