映画「MOZU」は、なぜ振り切れているのか 羽住英一郎監督「俳優の熱量を前面に出す」

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――そういう俳優の見極め方は?

もちろん過去の作品を観るというのもありますが、あとはそういううわさが伝わってくる。「あの人はいいよ」とか「あの人はすごい」とか。類は友を呼ぶじゃないですが、そういう人たちが集まってきます。

――「劇場版」では、池松壮亮さんと松坂桃李さんの対決場面はアクションシーンのハイライトのひとつでした。階段落ちも辞さないアクションを、本人たちが吹き替えなしで行っていました。

最初からああいう場所で、ああいうことをやろうというイメージがあったんで、あまり本人たちのことを考えていなかったかもしれません(笑)。彼らならできるだろうと思っていましたから。実際、危ない場所ではあるのですが、ちゃんと命綱はつけています。

フィリピンロケで、ずっと修学旅行気分と言いますか。テンションが上がったままアドレナリンが出た状態が普通のことになっていました。ノースタントで自分自身がアクションをやるというのも、俳優からしたらうれしいはずなんですよ。だったらできるだけやらせたいし、自分でやったからこそ出てくるパワーが映ると思うのです。だから俳優の力を引き出すというよりも、そういう環境に身を置いてもらうということの方が大きいかもしれないですね。

――羽住監督の作品といえば、激しいアクションシーンが特色ですが、それを裏付けるのが北九州ロケではないでしょうか。2012年には北九州市文化大使にも就任されていますが。

北九州は特別なんです。あそこはフィルムコミッションが群を抜いて充実している。本来、北九州は東京から遠いので、ロケ地としては不利。でも、予算的にはきつくても、それを補って余りあるメリットがある。それから北九州空港では深夜便、早朝便が飛んでいるので、そこも大きい。たとえば前日に東京で夜に働いている人も、次の日の早朝便で来てもらえれば、翌日の10時半くらいには撮影が開始できる。さらに北九州は高速が発達しているので、小倉を拠点にしても、だいたい30分も走れば、いろんな田舎の風景を撮ることができる。とにかく街の人たちが協力的なところが、ほかの街と違うところですね。

――そこが魅力だと。

北九州がすごいのは、毎回行くたびに、違う発見があるということ。それからバブル景気を経験していないので、建て替えをしている建物は少ない。だから昭和の雰囲気がまだ残っている。『おっぱいバレー』の時も北九州で撮影を行ったのですが、昭和の景色が残っているフォトジェニックな街なんです。

――テレビドラマ版の「MOZU」のアクションシーンはまさに北九州ロケのたまものだと言えます。

「MOZU」のクライマックスでは、完全に北九州を想定していました。『ワイルド7』で空港のシーンを撮影したので、今回もあそこでできるだろうなという計算がありました。おそらく1カ月くらい滞在すれば、いろいろなアクションシーンが撮れるだろうという前提で組んでいった。北九州でやってきた経験値の中で想定した。「MOZU」って本当に北九州ありきで作ってきた作品なんです。

フィリピンロケはものすごいテンションだった

今回の映画ではフィリピンでも撮影を行った(C)2015劇場版「MOZU」製作委員会 (C)逢坂剛/集英社

――そこで今回はフィリピンロケに行くわけですね。

やはりアクションは規制が多くて。カースタントなんかも日本ではやりにくくなっている。爆破や銃撃戦、カースタントというものは日本では難しいということがあります。それから「MOZU」の世界観が混沌(こんとん)としたものなので、架空の国を舞台にした方が、リアリティがある。そこで海外ロケに飛び込んだということがあります。

――現地の警察も協力的だったそうですね。

フィリピンの警察は、映画撮影に慣れている感じがありました。ハリウッド映画がしょっちゅう撮影に来ているので、普段ハリウッド映画を手伝っている人たちがスタッフについてくれたんです。

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