米国経済は本当に「終わり」が近いのか

「アメリカの世紀は終わらない」を読む

ITバブルの崩壊、貧富の格差の拡大、国内政治の混迷、リーマン・ショック、中国の台頭で再び米国衰退論が勢いを得ている。(Photo by argami12345)

相対的、絶対的両面で米国衰退論を排す

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戦後、何度も「米国衰退論」が議論されてきた。

1950年代にはソビエトが米国を追い抜き、世界を主導する国家となると喧伝された。1980年代には日本が米国を追い越すと主張された。だが、ソビエトは自壊し、日本は長期低迷に陥った。1990年代はソビエト崩壊と湾岸戦争の勝利、IT革命を背景に米国一極の世界が登場した。だが、ITバブルの崩壊、貧富の格差の拡大、国内政治の混迷、リーマン・ショック、中国の台頭で再び米国衰退論が勢いを得ている。

本書は、米国の外交政策立案に直接かかわり、「ソフト・パワー論」の展開で知られている著者が米国衰退論に挑戦したものである。

著者は「ロシア、インド、ブラジル、中国のいずれかが米国を追い越し、米国が世界のパワー・バランスの中心にいる構図を終わらせてしまうことは不可能ではないにしても、ほとんどありえない」と主張する。

著者は、この本で二つの観点から現在の米国衰退論を検討する。国際政治における米国の外交パワーの“相対的衰退”と、国内の情勢の悪化と堕落が進んでいるという“絶対的衰退”である。

外交・軍事における米国衰退論の背景には、急速な中国の台頭がある。これに対して著者は「向こう数十年で中国が、大いなる野望を実現するだけの軍事力を備えることは想像しにくい」と指摘する。中国が現在のような高い経済成長を持続するのは不可能であり、軍事のハード・パワーでも米国を上回るのは困難であると分析する。

さらに「中国と米国の間の競争の中心は、どちらがより多くの、質の高い友好国を持っているかになる」とし、中国は周辺国との軋轢を強めており、米国に対抗する力は持ちえないと主張する。さらに中国が開かれた社会になり、国際的公共財を提供できるようになるのかと中国覇権論に疑問を呈す。

国内の絶対的衰退論に関しては、「批判者たちが、ローマが国内問題から衰退していったことを引き合いに出し、この国は麻痺し、苦しんでいると表現するほどには、米国は壊れていない」と悲観論を排している。むしろ米国の本当の危機は、テロなどに過剰反応し、「内向きになってしまい、外に開かれているゆえに得ていた強さを自ら切り捨ててしまうような未来である」と指摘する。

内容は著者の従来の主張の繰り返しが多いが、非常にバランスの取れた本である。なお絶対的衰退に興味ある読者は保守派のパトリック・J・ブキャナン著『超大国の自殺』と読み比べてみることをお勧めする。

著者
ジョセフ・S・ナイ (Josepch S. Nye Jr.)
米ハーバード大学特別功労教授。「ソフト・パワー」の概念を提唱。米プリンストン大学卒業。ハーバード大学でPh.D.(政治学)取得。クリントン政権下で国家情報会議議長、国防次官補(国際安全保障政策担当)を務め、現国務長官の諮問機関の一員。

 

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