税制を変えれば、日本経済はよみがえる 成長力を高めるための改革とは?

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難解な税制を平易かつ包括的に論じる

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税制改革書の決定版だ。難解な税制をわかりやすく、包括的に論じる。近年話題の租税回避にも十分な紙幅を割いている。

かつて社会保障はセーフティネット拡充を主眼としたが、多額の費用を要し、就業意欲も阻害する。その反省から、自助努力を促す「給付付き税額控除」の採用が近年の世界的潮流だ。日本でも抜本的税制改革の一環として、消費増税の際に導入が検討されたが、民主党時代の子ども手当の迷走もあり、消費増税の低所得者対策として食料品等への軽減税率ばかりが議論されている。軽減税率導入は税収の取りこぼしが増え、富裕層に大きなメリットをもたらす。10%への増税の際、軽減税率ではなく、給付付き税額控除を低所得者対策として導入すべきだ。

競争力向上の方策として法人税改革も避けては通れない。税収中立を前提に、現在の35%から30%弱への実効税率引き下げの財源がほぼ固まった。税優遇による投資促進を支持する人が多いが、優遇なしでは実行されないような低収益の投資を助長すれば、潜在成長率はむしろ低下する。租税特別措置など優遇税制の停止を財源とすることの妥当性を説得的に論じる。

さらに本書は、最終的に25%程度への引き下げが不可避という視点に立ち、財源を探る。具体的には、地方消費税を1ポイント引き上げ、その財源で法人事業税を廃止すると共に、法人住民税を国税化し地方交付税への転換を提案する。地方政府の行政サービスの財源として、振れの大きな法人税に頼る現在の制度は適切ではない。評者も同感だ。

所得再分配機能は税の大きな役割だが、日本ではその機能が著しく低下している。富裕高齢者の負担増は止むを得ない選択だろう。とりわけ先進国で最も寛大な年金税制の見直しは不可欠だ。新たに年金商品が開発されても、いつも使い勝手が悪いのは拠出、運用、給付の3段階のすべてで非課税であるため、税収減を恐れる財務当局が消極的になるからではないか。

財源が限られるため、社会保障の重点を高齢者から家族にシフトすべきと論じる。喫緊の課題として、女性の就業を阻害する配偶者控除を止め、それを財源に、子育て支援のための児童税額控除導入を説く。こうした施策には、2016年に導入されるマイナンバー制の活用が必要だが、スウェーデンなど最先端の国では、給与所得や金融所得等が記入された申告書が税務当局から送付され、それを個人が修正・承認する仕組みが作られている。マイナンバー制の有効活用で徴税能力が高まるだけでなく、公平性も著しく増す。反対の声は結局、税を逃れてきた既得権益層からではないか。

 目次
  税で日本はよみがえる

 
  第1章
税は国の未来を変える

第2章
究極の法人税改革

第3章
税の攻防:企業 vs.国家――租税回避への対応

第4章
税で促す個人の自立

第5章
税で女性パワーを引き出す:就労から子育てまで 

第6章
マイナンバーを活用せよ

第7章
資産・所得格差と税制

第8章
少子高齢化モデルとなるグローバル時代の税制

著者
森信茂樹(もりのぶ・しげき)
中央大学法科大学院教授。ジャパン・タックス・インスティチュート所長、東京財団上席研究員、財務省財務総合政策研究所特別研究官。1950年生まれ。京都大学法学部卒業、大蔵省入省。主税局総務課長、東京税関長、財務総合政策研究所長などを歴任。

 

河野 龍太郎 BNPパリバ証券経済調査本部長

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こうの りゅうたろう / Ryutaro Kono

1964年愛媛県生まれ。1987年横浜国立大学卒。住友銀行、大和投資顧問、第一生命経済研究所を経て2000年から現職。政府の審議会などの委員を歴任。近著に『金融緩和の罠(共著)』(集英社新書)など。

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