北陸新幹線開業で露呈した上越の「悩み」 開業で新潟県分裂の危機も?

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開業直後の上越妙高駅東口。上杉謙信の像が人目を引く

金沢、長野という新旧の北陸新幹線ターミナルの狭間で、上越妙高駅(新潟県上越市)とその周辺もまた、新たな鉄路の活用策を模索している。

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石川県や富山県と異なり、新潟県は1982年に上越新幹線が開業、「新幹線時代」を迎えて30年以上が経つ。しかし、2本の新幹線は県内では接続せず、沿線同士の連携にも工夫がいる。さらに、上越市は広大な市域に都市機能が分散しているうえ、金沢や富山に比べれば首都圏との時間短縮効果も限定的だ。それでも、地元は「QOL(生活の質)の向上」という、ほかの新幹線沿線にはない合言葉を掲げ、新潟県にとって「第2の開業」から、人口減少社会の活路を引き出そうと知恵を絞る。

短縮効果大きい長野―上越妙高間

上越妙高駅の名物、「もてなしドーム」

北陸新幹線開業から2日後の2015年3月16日、上越妙高駅のコンコースにはまだ人の波が押し寄せていた。笑顔の市民の横を、観光客や視察とおぼしきスーツ姿の男性らが行き交う。改札脇には戦国の雄、上杉謙信の拠点・春日山城のジオラマが。城跡は上越市役所近く、上越妙高駅からは北方約8kmに位置する。地元杉材を使った「もてなしドーム」をくぐって東口広場に出ると、真新しい謙信の銅像をスマートフォンに収めるビジネスマンたち。開業日の余韻が駅一帯を包んでいた。

4カ月後の7月初旬、長野経由で再び上越妙高駅に降り立った。長野市と上越市の間は各駅停車の「はくたか」で2駅、23分、自由席運賃は2,810円。鉄路では単線の信越本線時代より約1時間早く移動できるようになった。あまり目立たないが、北陸新幹線沿線の主要都市間で、時間・距離が最も大きく縮んだ区間の一つが、長野市と上越市、つまり信州と越後の境界だった。

しかも、長野・上越両市には、緊密な「お隣さん」感覚がある。長野市民は、上越市一帯の日本海を、親しみを込めて「信州の海」と呼ぶ。海のない長野県、とりわけ長野市一円の人々にとって、上越市の海は最寄りの「自分たちの海」だというのだ。上越市側も、その呼称を喜んで受け入れているように見える。聞き取り調査を行った上越市民の1人は「若い頃は、都会的な空気を吸いたくなったら長野市へ行っていた。距離的にも新潟市より近いから」と振り返った。後述するような懸案も抱えているが、北陸新幹線開業は、両地域の絆をより太く確かにするだけでなく、生活面で「県境」の在り方を変える可能性を秘めている。

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