3月14日に開業した北陸新幹線が快走を続けている。JR東日本が7月下旬に発表した、お盆の指定席予約状況によると、北陸新幹線を走る「かがやき」「はくたか」「あさま」の利用は前年比257%と大幅に増えた。開業3カ月間の乗客は延べ約246万人と在来線当時の3.3倍に達し、想定以上の走り出しとなった。
だが、過去の整備新幹線の開業と同様、沿線の表情は一様ではない。「金沢独り勝ち」を見出しにしたニュースが流れる一方、手放しで喜べない事情を抱えつつ、克服を試みる都市もある。地域づくりの課題とヒントを、沿線の光景から拾ってみた。
目指すは「滞在型観光の深化」
ホームとコンコースを埋め尽くす人と熱気。待望の北陸新幹線をぜひ一目、という市民の思いがあふれかえる。開業翌日、3月15日午前11時すぎの金沢駅。頭上には、10年前からこの日を待ちわびていた金沢駅のシンボル、鼓門と「もてなしドーム」が誇らしげにそびえる。近江町市場、金沢21世紀美術館といった観光スポットも人でごった返していた。
開業14カ月前の2013年12月、筆者が調査で金沢を訪れた時には、すでにまち全体がカウントダウン・モードに包まれていた。無理もない。東京以西で日本海側最大の都市へ高規格鉄道が乗り入れ、首都圏と直結する。上越新幹線・越後湯沢乗り換えで最短3時間51分だった東京―金沢間が、2時間28分に。時間短縮効果と地域社会へのインパクトは、1982年の東北新幹線・大宮開業時の仙台市に匹敵する。
ヒアリングに対応した金沢市プロモーション推進課の担当者は「私たちが目指すのは、まちのたたずまいや市民の暮らしを1~2カ月じっくり味わっていただく、滞在型観光の深化です」と力を込めた。開業に備えて市内の宿泊施設を調査したところ、ヨーロッパ系の外国人観光客には、分厚いガイドブックを携えて長期滞在している人々が少なくないことが分かった。彼らは金沢の文化や歴史の知識を蓄えて来訪し、まちを隅々まで堪能していたという。そんな観光スタイルを、国内からの旅人にも定着させたい――。建築物をめぐる「アーキテクチャー・ツーリズム」や、技芸・工芸を体験する「クラフト・ツーリズム」など、滞在型観光の受け皿として、多彩なメニューも整えている。
想定を超えた観光客が押し寄せるなか、手軽な旅を印象づける「ちょっと、金沢まで」というキャッチフレーズと、地元が目指す「滞在型観光の深化」は今後、どう調和していくのだろう。地方都市の姿や営みが持つ多様なポテンシャルを考えるうえでも、時間をかけてウォッチしていく必要性と意義を感じる。
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