映画「バケモノの子」が渋谷を舞台にしたワケ 「スタジオ地図」齋藤優一郎氏に聞く

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(c)2015 THE BOY AND THE BEAST FILM PARTNERS

ーー今回の『バケモノの子』は一転して、大都会である「渋谷」が舞台となっています。

田舎の風景や大自然の美しさと同様に、大都会には変わらぬ美しさとダイナミズムが満ちている。今回、映画『バケモノの子』で渋谷を映画の舞台のモチーフとさせて頂いたという理由には、映画とのテーマ的な共通性があると思うのです。本作『バケモノの子』のテーマのひとつに成長というキーワードがあります。子どもが大人になるという、この成長のプロセスは世界共通の体験であり普遍的なテーマのひとつだと思っています。その成長という変化を肯定する街こそが、この渋谷だと思うのです。多様な価値観を許容し、つねに変化をいとわない街の歴史や態度こそが、これだけの文化や流行、そして新しい価値観を生み出す、映画同様のダイナミズムを持っているのだと思うのです。

東急や渋谷区の協力で渋谷の街を忠実に再現

齋藤優一郎(さいとう・ゆういちろう)●1976年生まれ。茨城県出身。アニメーション映画制作会社「スタジオ地図」プロデューサー/代表取締役。1999年マッドハウス入社。プロデューサー丸山正雄に師事し、多くのアニメーション企画、実写とのコラボレート作品などに参加。細田守監督『時をかける少女』(2006)、『サマーウォーズ』(2009)などのプロデューサーを務めた。11年同社を退社後、 細田守監督と共に「スタジオ地図」を設立。以後、細田監督作品のプロデュースに専念。『おおかみこどもの雨と雪』(2012)、『バケモノの子』を企画・制作。 (撮影:尾形文繁)

ーークレジットを見ると、東急や渋谷区の協力があったようですが。

本当に幸運で大変ありがたいことに、東急さんや渋谷区を始め、今回も多くの方々に映画制作に対してご協力を頂きました。特に東急グループさんとご一緒させて頂くことになったきっかけというのは、これまでの作品同様に「人」と「人」とのつながりと出会いが始まりでした。でもそれが今回、これまで以上に世界に向けて、街と映画の魅力が一体となって発信されていくことになったのは、やはり渋谷が変化を肯定する、バイタリティある街であるということと、それ以上にその街の魅力や文化をたくさんの方々に知って頂きたいという思いを持った多くの方々、そして東急さんチャレンジの積み重ねこそが、本当に大きなうねりへと成長していった。本質はそこにあるのではないかと思うのです。

ーー渋谷の街を忠実に再現するということにおける狙いは?

細田監督は、現代の日本を舞台に、そこに生きる私たちの隣に住んでいるかもしれない普通の人達を主人公に映画を作っています。言い換えれば、この世界のすべての人達が映画の主人公になり得るかもしれないということ。その主人公達が息づく世界というのは、絵で描くアニメーション映画という虚構の世界だからこそ、私たちが生きる世界と本質的に同じと思える存在感が必要なのだと思うのです。細かなディテールの積み重ねと、アニメーションという表現が最も得意とする理想を描く力が相まることによって、映画の幹は太くなり、皆さんがあたかも現実の世界を観ているかのような存在感が表現されてくるのではないかと思うのです。

ーーそれでは、そうとう渋谷を歩き回ったんじゃないですか?

おそらく細田監督が最も渋谷の街を歩きまわって、その空気や魅力を感じたのではないでしょうか?

ーースクランブル交差点を舞台としたハリウッド映画顔負けのシーンがあります。あれは、日本の実写映画がやりたいと思ってもできないものだと思ったのですが。

そうですね。確かに多くの方々に実写の映画ではなかなか渋谷の街をそのまま描くというよりは撮影することが難しく、驚くことにそれほど多く渋谷を舞台にした実写映画はないのだと言うことを聞いたことがあります。逆に言うと、だからこそ、『バケモノの子』はアニメーションでしかできない映画であり、チャレンジであったとも言えるのではないかと思います。

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