戦争の痛みを伝えていかなければならない

塚本晋也監督が「野火」の映画化を急いだ理由

(c)SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER
第2次世界大戦末期、フィリピン・レイテ島を舞台に、飢餓と暑さのために極限状態に追い込まれた日本兵の姿を描き出した大岡昇平の同名戦争文学を映画化した『野火』が、7月25日より、渋谷のユーロスペース、立川シネマシティほかにて全国公開される。「本当の戦場にいるような恐ろしさがあり、頭から離れなかった」と原作小説に感銘を受けた鬼才・塚本晋也監督が二十数年にわたって映画化を熱望した作品だ。
塚本監督は、戦争の痛みを知る戦争体験者の話を直接聞きに行き、内容に反映させたという。「今、実際に戦争の痛みを知る人がいよいよ少なくなるにつれ、また戦争をしようとする動きが起こっているような気がしてなりません。今作らなければ、もうこの先作るチャンスはないかもしれない」という強い思いを胸に、低予算ながらも、多くの協力者の力を借りながら完成させた。昨年9月に行われた第71回ベネチア国際映画祭でのワールドプレミアでは、無残で恐ろしい戦場の姿を容赦なく、真正面から直視した映像が、観客に衝撃を与え、話題を集めた。今回は塚本監督に、本作を完成させた思いを聞いた。

初めて原作を読んだ時の感情を、表現したかった

ーー映画を拝見して、いきなり戦場に投げ込まれたような感覚を覚えました。わかりやすい物語を提示するのではなく、あえて混沌としたものを提示した作品だと感じたのですが。

 確かに何も説明はないですからね。しかし、最初からそうしようと思ったわけではありません。最初から最後まで、『野火』という原作の世界に近づきたいということが自分の中で一貫していたことでした。初めて原作を読んだ時に感動したエッセンスをそのままむき出しで映画にしてしまおうと思ったのです。

もしこれが予算の大きな商業映画だとしたら、時代背景などの状況を説明する描写も必要だったと思います。しかしこれは、おカネもない自主映画なので、必要なエッセンスの塊を浴びてもらって、どう感じるかということだけを大事にしました。ある種の巨大な自然を背景にした密室劇というか、不条理劇とでも思って観ていただければいいんじゃないかと思います。ですから、具体的説明はパンフレットを買っていただいて。それに関しては必要以上にわかるように作ってあります。

ーー塚本監督は「観た後はもうげんなりすると思いますが」みたいなことをよくおっしゃっています。口当たりのいい戦争映画ではなく、観客の首根っこを捕まえて「観ろ!」と言っているような気迫を感じさせたのですが。

この状況を描くのに、口当たりのいいことは嫌だなぁとは思っていました。だからヒロイズムを描こうとか、あるいは悲劇に直面し、涙が出てしまうような戦争映画を作るつもりはなかった。本当に美しい自然の中で、なんでこんなにも苦しいことをしなくてはいけないのか。ただそこには非常に即物的な死が待っている。戦場は人間が無になってしまう場所なのだ、ということを描きたかったんです。

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