「セクシー田中さん」悲しい出来事の裏にある現実 ドラマ関係者のバッシング過熱に感じること

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前述したように今回の件は、個人を攻撃する問題ではない一方で、日本テレビと小学館は1人の大切な命が失われたことに対する誠実な姿勢を見せられるのか。世間の注目が集まりはじめています。

求められているメディアとしての対応

29日、日本テレビは番組ホームページに、

「芦原妃名子さんの訃報に接し、哀悼の意を表するとともに、謹んでお悔やみ申し上げます。2023年10月期の日曜ドラマ『セクシー田中さん』につきまして日本テレビは映像化の提案に際し、原作代理人である小学館を通じて原作者である芦原さんのご意見をいただきながら脚本制作作業の話し合いを重ね、最終的に許諾をいただけた脚本を決定原稿とし、放送しております。本作品の制作にご尽力いただいた芦原さんには感謝しております」

というコメントを掲載しました。

真相はわかりませんが、日本テレビのコメントからは、「芦原さんに哀悼の意を表するために控えますが、『実際のところはこうでした』『こちらはやれることはやりました』」というニュアンスもあるように感じました。

経緯などの詳細が書かれず、自己正当性をにおわせたようにも受け取れる表現のためか、現在ネット上には日本テレビに対する批判の声が上がっています。ただ、批判している人々はエキセントリックに怒っているというより、「経緯を調査中であり、後日発表します」などの向き合う姿勢を見せてほしいのではないでしょうか。

一方の小学館にとって「大切な漫画家を失った」というショックは計り知れないでしょう。しかし、芦原さんのファンを筆頭に世間の人々から、組織として経緯の調査を求めるような声が上がっています。

いずれにしても、「放送終了からわずか1カ月あまり、ブログやXへの投稿からわずか数日間で、原作者が命を絶った」という事実はあまりに重く、日本を代表するメディアとして「命の大切さを伝える」という意味でも真摯に向き合い、未来につなげてほしいところです。

最後に、私たちが覚えておかなければいけないのは、芦原さんが命を絶った最大の理由は、まだわからないこと。

「攻撃したかったわけじゃなくて。ごめんなさい」という芦原さんの最後の投稿を踏まえると、自分の思いをくみ取ろうとせず、脚本家やプロデューサーなどを激しく個人攻撃する人々に、大きなショックを受けていた可能性も否定できません。私たちにとって今回の件は決して他人事ではなく、日ごろから「個人を攻撃しない」という心がけを忘れずにいたいものです。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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