「セクシー田中さん」悲しい出来事の裏にある現実 ドラマ関係者のバッシング過熱に感じること

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今回の騒動ではネット上に「ドラマのスタッフはいまだに『漫画をドラマにしてやる』という上から目線」「原作者やファンを見下している」などの声も少なくありません。まだ一部でそういう人がいるかもしれませんが、私が知る限り最近はそんなプロデューサーに会ったことがなく、むしろ良くも悪くも腰の低さを感じさせられる機会のほうが多いものです。

しかし、それでも前述したように、「スケジュールや忙しさを理由に原作者や脚本家への尊重や配慮の不足があるのでは?」と感じることがあるのも事実。原作者や脚本家はもちろん、ファンや「一度も見たことがない人」ですらSNSで疑問や批判の声を上げる時代だけに、以前よりもトラブルが起きやすく、もうワンランク上の尊重や配慮が求められているのではないでしょうか。

「原作モノよりオリジナル」の流れ

コロナ禍に突入した2020年以降、ドラマの配信再生数が劇的に上がり続けていることで、近未来への投資も含め、各局はこの約2年間ドラマの放送枠を増やしています。だからこそ各局の制作サイドにとって、すでに物語と登場人物のベースがあり、一定数のファン層がいる漫画や小説は魅力的な存在に間違いありません。

その一方で原作のあるドラマで見逃せないのは、制作の際に尊重や配慮が求められるうえに、「シリーズ化、映画化、スピンオフ、グッズ展開、世界配信などのビジネス展開に制限がかかる」などのデメリットもあること。そのため、放送収入の減少を配信やその他の収入で補いたい各局は、「いかにオリジナルのヒット作を生み出すか」に注力しはじめています。たとえば、昨夏に放送された「VIVANT」(TBS系)のような局を挙げた大作は“オリジナルであること”が今後は絶対条件になっていくでしょう。

この傾向は裏を返せば、出版社と原作者にとって「実写化のチャンスが減るかもしれない」ということ。明らかに「実写化狙い」でジャンルやキャラクターを設定した漫画や小説も少なくない中、「原作者が条件を多く出すなどハードルを上げるほど、実写化の可能性は減り、売り上げを上げづらくなっていく」という現実もあります。

漫画家や小説家の中には、「映像化の際に一切口を出さない」と決めている人もいますが、SNSでの発信を見る限り「作品は自分の子ども」という思い入れが強い原作者が以前より増えているようにも感じられます。だからこそ出版社の担当編集者には、原作者と映像の制作サイドとの間に入る高いコミュニケーション力が求められていくでしょう。

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