米国でも実は「株主第一主義の修正」進む納得事情 新たな企業組織形態を導入する動きも広がる

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このような企業組織形態は、2022年4月現在で、メリーランド、ペンシルベニア、バーモント、ニュージャージー、バージニア、カリフォルニア、ハワイなど全米40州およびコロンビア特別区の州会社法に導入され、全米の上場会社の半数以上が設立準拠法として選択しているデラウェア州の会社法でも、2013年7月に法制化されている。

デジタル保険のレモネード、養鶏所経営のバイタル・ファームズ、眼鏡製造販売のワービー・パーカー、スニーカー製造のオールバーズなど、パブリック・ベネフィット・コーポレーションで株式上場を果たした企業もすでに登場している。

また2021年には、ウェルズ・ファーゴやフェイスブック(現・メタ・プラットフォームズ)などアメリカ上場会社16社にパブリック・ベネフィット・コーポレーションへの移行を求める株主提案も提出された(いずれも大差で否決)。

このような動きの背景には、ヘッジファンド・アクティビズムの隆盛などに伴って進行した過度な「株主第一主義」が、格差の拡大に拍車をかけてアメリカ社会の分断を深め、企業の存立基盤そのものを脅かすに至っているとの危機感があるように思われる。

欧州では過度な「短期的利益追求主義」を規制

もともとステークホルダー資本主義の考え方が根強かった欧州では、アクティビスト・ファンドに典型的にみられるような過度な「ショート・ターミズム(短期的利益追求主義)」を規制する動きが強まっている。

代表的なものが、2017年に成立し、2020年に発効したEUの株主権利指令(Shareholders Rights Directive)の改正である(改正後の株主権利指令はSRDⅡと呼ばれる)。

この改正は、短期的に大きな利益とリスクテイクを求める、いわゆるショート・ターミズムがリーマン・ショックに始まる金融危機を引き起こしたとの反省に基づき、行き過ぎた短期的利益の追求は弊害をもたらすことの方が多いという観点から、株主や会社の取締役が会社の中長期的な利益を追求するよう動機づける内容になっている。

例えば、この改正により、欧州の上場会社は、上場会社の株式を0.5%以上保有する実質株主について、当該実質株主が誰かを特定できる情報を取得する権利を有する旨が明示的に定められた。

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