米国でも実は「株主第一主義の修正」進む納得事情 新たな企業組織形態を導入する動きも広がる

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ステークホルダー資本主義の考え方は、ドイツや北欧諸国を中心に、共同決定法などが存在し、従業員や取引先、会社の工場などが所在する地域コミュニティなどステークホルダーの利益を重視する傾向が強かった欧州では従来から根強かっただが、資本主義の総本山であるアメリカでは、伝統的に株主資本主義の考え方が圧倒的に優勢であった。

シカゴ学派の代表であるミルトン・フリードマンが、1970年にニューヨーク・タイムズ紙への寄稿で、「企業の社会的責任は利益を増やすことにある」と断言したのはその象徴である。

しかしながら、格差問題の深刻化に伴って、アメリカでも、従来の「株主ファースト」からの軌道修正を図る動きが表面化している。

そのことを象徴するのが、2019年8月に、アップルやウォルマートなどアメリカの主要企業が名を連ねる財界ロビー団体である「ビジネス・ラウンドテーブル」が公表した、「企業の目的に関する声明」と題する公開書簡である。

この公開書簡では、企業が説明責任を負う相手は、顧客、従業員、サプライヤー、コミュニティおよび株主の五者であって、株主はそのうちの1つにすぎないと断言されている。このような内容の公開書簡に、全米の有力企業の経営トップ181人が署名した(それらトップが率いる企業の株式時価総額はアメリカの全上場会社の株式時価総額の約30%を占めると報じられていた)ということは、アメリカでも、株主資本主義からステークホルダー資本主義への揺り戻しが起こっていることのあらわれといえる。

パブリック・ベネフィット・コーポレーションを導入

また、アメリカでは、2010年のメリーランド州を皮切りに、各州の会社法において、「パブリック・ベネフィット・コーポレーション」と呼ばれる新たな企業組織形態を導入する動きが広がっている。

パブリック・ベネフィット・コーポレーションとは、その基本定款又は附属定款に、通常の株式会社に見られる事業目的と共に、社会問題や環境問題への取り組みなどの公益的目的を記載した会社である。パブリック・ベネフィット・コーポレーションの取締役会は、そのような公益的目的の実現に取り組むべき信認義務を負っているものとされ、株主は、取締役がかかる公益的目的の実現に反する行動などをとった場合には、差止命令による救済を求めることができるとされている。

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