米国でも実は「株主第一主義の修正」進む納得事情 新たな企業組織形態を導入する動きも広がる

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以上で述べたような世界的な株主資本主義からステークホルダー資本主義への揺り戻しの動きに対応して、機関投資家の側では、投資対象を選別する際の基準として、ESGないしSDGs(持続可能な開発目標)への取組みの度合いを重視する動きが強まっている。

ここでいうESGとは環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)を意味し、SDGsとは2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」において記載された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標を指す。

そして、投資にESGの視点を組み入れることなどを原則として掲げる国連責任投資原則(Principles for Responsible Investment: PRI)が2006年に策定され、この原則に大手機関投資家が相次いで署名したことなどもあって(2022年6月3日現在では同原則への署名機関は4979社)、世界的に、機関投資家による議決権行使、ひいては上場会社のコーポレート・ガバナンスにおいて、ESGないしSDGsへの取組みが重視される傾向が急速に強まった。

わが国でも、2015五年に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が同原則に署名したこともあって、急速に署名機関数が増加しており(2022年6月3日現在で117社)、2021年に改訂されたコーポレートガバナンス・コードが上場会社にESGないしSDGsへの取組みを促したことなども受けて、同様の傾向が広がっている。

「環境アクティビスト」の登場

機関投資家による投資対象の選別、さらには上場会社のコーポレート・ガバナンスにおいてESGないしSDGsへの取組みが重視される傾向が強まっていることに伴って、近年、「環境アクティビスト」と呼ばれる新たなタイプの活動家株主が登場するに至っている。

その代表が、環境アクティビスト・ファンドのエンジン・ナンバーワンや、豪英資源大手のBHPグループや英豪資源大手のリオ・ティントに地球温暖化問題関連で多数の株主提案を行っているNGOのオーストラリア企業責任センター(ACCR)である。

エンジン・ナンバーワンは、2021年5月のアメリカ石油大手エクソン・モービルの定時株主総会で、持株割合がわずか0.02%に過ぎなかったにもかかわらず、委任状争奪戦に勝利して、取締役3名を送り込むことに成功している。

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