――語り下ろしの著書は珍しいですね。
初めて。最近はそういう依頼が多くあるが、そもそも語り下ろしをやったことがない。小説家は字を書いてなんぼであり、いっさい断ってきた。この本は実は講演集。講演録なら話は別だ。初めてしゃべり言葉を本にした。
――もちろん新たに推敲された。
僕は何でも人任せがダメな人間で、編集者泣かせかもしれない。しゃべった言葉でも、いざ活字になる、本になるとすれば、読者にとっては僕の本だから、それだけの責任を果たさないといけない。そういう意味で、ある程度、筆を入れさせてもらった。
歴史を正確に知っておくことが必要
――好んでここ150年の歴史に材をとってきました。
歴史を考えるとき、幕末・明治維新から150年ほどが経ち、何を間違い、何が成功したか、とは考えない。
どうも、この通りにしかならなかったのではないかと、わりと運命的なものを感じる。これから先も日本の運命はあるのだろう。それは変えられるものかどうかわからない。ただ正確に知っておくことは必要なのだろうと思い、講演をずっとしている。小説もそのつもりで書いている。
150年というのはひとつの歴史だから、どうしても幕末・維新から今日の歴史を分けて考えがちだ。特に日本は元号があるので、明治と大正、昭和を別々の時代と考え、なおかつ、違う国家観で戦前と戦後をとらえる。
だが、よく考えてみるとひとつの国の通史だから、太い部分は今日までつながっているはず。むしろ運命的につながっているというのが僕の考え方だ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら