経産省の狙いは「原発比率を下げないこと」 公約に反し、原子力の比率を高めに誘導

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原子力のこうしたリスクを特性としてあえて明記せず、プラス材料ばかりを並べ立てる経産省のやり方は、議論をゆがめてしまうとともに、政府への不信感を一段と募らせることになる。

「運転コストが低廉」というのも、燃料(ウラン)コストが比較的安いという意味にすぎない。重大事故に備えた安全対策コストや福島事故を含めた事故リスク対応費用、さらに廃炉費用や廃棄物処理費用などを含めた発電コスト全体で本当に割安なのかは大きな疑問が残ったままだ(現在、小委の発電コスト検証ワーキンググループで再検討中)。

"ベースロード電源"の概念自体が過去のもの

ベースロード電源について経産省は地熱、水力、原子力、石炭の4つを挙げるが、橘川氏は「3.11以降、運用の実態としてLNG(天然ガス)火力がベースロードに入ってきたことは紛れもない事実」と指摘する。そして、電力会社の国際提携による交渉力強化など、どうやってLNGの調達コストを下げるかを考えることこそが前向きな議論であり、3.11を踏まえた新しい発想だと主張する。

経産省が必要性を示唆する「ベースロード電源6割確保」が、本当に国際標準的かという点にも疑問がある。欧米のベースロード電源の比率は確かに現在6割程度だが、1990年にはともに8割以上あったものが次第に低下してきた結果だ。今後についても、国際エネルギー機関(IEA)では2030年に5割程度、40年に4割台へ低下する見通しを示している。

「そもそも”ベースロード電源”という概念自体が過去のものになりつつある」と、自然エネルギー財団は2月のレポートで述べている。風力や太陽光などの再エネの価格低下が進み、そうした変動型の再エネを電力系統に安定的に取り込めるような技術が発達しつつある中で、ベースロード電源の必要性が低下しているからだ。

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