三井住友信託、「シティカード買収」の狙い 信託専業グループとして成長モデルを描けるか

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住友信託、三井信託、中央信託という大手信託銀行3行が再編統合を進めて現在の姿に。都市銀行を核とするメガバンクグループの傘下には入らなかった

3月31日、三井住友信託銀行(三井住友トラスト・ホールディングス傘下)は米シティグループの日本でのクレジットカード事業を買収すると発表した。同事業を展開するシティカードジャパンの全株式を年内メドに買収する。買収額は公表していないが、400億円強とみられる。狙いは、クレジットカード事業の強化とリテール事業の商品・サービスの充実だ。

三井住友信託銀行も自行の三井住友トラストカードを展開してきたが、会員数は約20万人。今回の買収により、「ダイナースクラブカード」と「シティカード」の会員約70万人が加わる。しかも、年齢は30~50代で年収1000万円以上の会員が多い。三井住友信託銀行の顧客も富裕層が多いが、50~60代が中心。従来よりも若い富裕層顧客へ、資産運用商品や不動産の営業を強化できる。

三井住友銀行の軍門に下らず独自に拡大

今回の買収について銀行業界内では「三井住友銀行をはじめとする商業銀行を核とするメガバンクに対しての三井住友信託銀行の対抗心がより鮮明になった」と受け止めている。三井住友銀行は昨年末、シティのカード事業を除く個人向け事業を今年10月メドに買収することを公表した。その事業は、三井住友銀行が13年10月に仏ソシエテジェネラル信託銀行を買収して営むSMBC信託銀行で展開する。つまり三井住友銀行は、シティの個人部門買収により信託事業を強化する。

いま、日本の金融界は、三菱東京UFJ銀行を中核とする三菱UFJフィナンシャル・グループ、みずほ銀行を中核とするみずほフィナンシャルグループ、それから三井住友フィナンシャルグループの3大金融グループがしのぎを削っている。いずれも商業銀行・信託銀行・証券の3業態をグループ内に持ち、その連携によって、相続などの顧客ニーズに応えていく動きが加速している。

しかし、三菱FGの三菱UFJ信託銀行(14年9月末総資産35兆円)、みずほFGのみずほ信託銀行(同6兆円)に比べ、SMBC信託銀行(2101億円)は、その規模が圧倒的に小さかった。三井住友信託銀行が三井住友トラスト・ホールディングスとして独自にグループを形成、三井住友FGの傘下に入ることを頑なに拒否したからだ。そのため、三井住友FGは外資系を買収することなどで独自に信託を展開するしかなかった。そこで、三井住友FGは総資産2.4兆円超のシティの個人部門買収を行ったわけだ。

こうした動きもあり、専業信託銀行首位の三井住友信託銀行(同41兆円)も、クレジットカード事業強化に動いた。他の大手信託銀行がいずれもメガ金融グループの傘下に入ったのに対し、あくまでも独立した信託銀行として業容を独自に拡大していくことを一段とはっきりさせたわけだ。3メガ金融グループとは異なる形での大手金融業としての成長モデルを描くことができるか、三井住友信託銀行の真価が問われる。

福田 淳 東洋経済 記者

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ふくだ じゅん / Jun Fukuda

『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部などを経て編集局記者。

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