福島への「善意の押し付け」は、ただの自己愛

「前のめりの正義感」は確実に滑る

福島の問題は複雑だし、気を使うし……。時間が経つにつれそんな心理的ハードルは上がっているかもしれない。普通の人に福島を考えるための足場を、という思いが新進気鋭の社会学者を動かした。『はじめての福島学』(イースト・プレス)を書いた福島大学うつくしまふくしま未来支援センター特任研究員の開沼博氏に聞いた。

 

──震災4年目の3・11、メディアの報道に変化は感じましたか?

むしろだいぶパターン化してきた気がします。「避難」「賠償」「除染」「原発」「放射線」「子供たち」のステレオタイプ6点セットにまつわる話をしておけばいい、みたいな。廃炉に30年以上かかるのも、除染の遅れもみな震災直後からの定型句。こうして同じパターンで福島を語り続けることで、みんなの無関心を引き起こし、忘却へとつながっていく。

──帰村後に直面する厳しい現実を描写した内容が今年は多かった気がしますが、現在進行形の問題とはまだ乖離しているのでしょうか。

NHKや一部新聞はしっかり細かく取材報道をしてると思いますが、それが一般の人に伝わりきってるかどうかが問題です。「福島の人口流出が危機的だ」という誤ったイメージと、減少率は震災前のペース、いわば「平常運転」に戻っているという現実とのギャップや、まるで県内全域が荒野と化してるかのような通り一遍の見方は今も続いてるんじゃないか。大多数の人が取り残される状況が年々悪化してるのかなと。

何となく複雑だなとしか伝わってない。情報の受け手側もリテラシー、基層的知識がないと、なかなか生産的な議論にはならないですよね。

データで示せる道具・武器を用意しなければ

──この本は人口、農業、漁業・林業、2次・3次産業、雇用・労働、家族・子供という順で実際のデータを挙げ、福島への誤解・妄想を正していく構成になってます。

開沼博(かいぬま・ひろし)●1984年福島県いわき市生まれ。東京大学大学院博士課程在籍。福島原発事故独立検証委員会ワーキンググループメンバー、復興庁東日本大震災生活復興プロジェクト委員歴任。著書に『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』『フクシマの正義「日本の変わらなさ」との闘い』『漂白される社会』等。

ネットでは依然として、福島で検索するとネガティブなキーワードが並びます。最近では、国立の某科学博物館関係者が「原発で作業員が4000人死んでる」という話を流し、復興関係のNPO職員が「福島では子どもが死にまくってる」と発信していました。書店の福島・原発コーナーには数々の陰謀論の本。

先日、師匠の上野千鶴子(東京大学名誉教授)に「ダメな読者を扱ってると文章のクオリティが落ちるからやめなさい」と言われました。だが、まともな読者だけをちゃんと導けば真っ当な議論ができる時代じゃなくなってるんじゃないか。

権威ある文系の学者が、知識もなく放射線について書いて、それが弱者のためとか、経済一辺倒社会への反省とか思ってるらしい。たとえば福島で先天性障害児が大量に生まれてるとか、離婚が急増してるとかの事実はまったくないのに、そんなうわさをまじめに信じてる人もいる。

そして、そんなデタラメを投げ付けられたとき、福島で生きる人間には反論する材料がなかったんです。データで示せる道具・武器を用意しなければと、強く感じたんです。

──県の外に福島の真の姿を知らせるのみならず、内に向けても書かれた本だったんですね。

そうですね。今までだと、本物の専門家の本か、専門家と称するデマゴーグの本か二極化していた。専門家の本は難しい。デマゴーグはわかりやすいから、主婦とかがどんどんはまっていっちゃうわけです。そこで中立の立場で複雑な状況をわかりやすく伝える必要があると思った。

この本に掲載したデータは基礎的なものばかり。あえて誰でも入手でき誰でも検証できる、じいちゃんばあちゃんでも議論に加われる踏み台を作りたかった。いいかげんなデマに福島の人が嫌な思いをしたり、エセ医者の言うことに扇動されて誤った選択をする状況を変えたい。最初に挙げた福島6点セットはもちろん重要なことなんだけど、それを言っとけば一応考えた雰囲気になるのはやめましょう、ということです。

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