福島への「善意の押し付け」は、ただの自己愛 「前のめりの正義感」は確実に滑る

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──福島の問題は全国各地方の問題に共通する、と強調する狙いは?

福島6点セットを持ち出すと、あそこは特殊で異常で危機的で、自分とは関係ない話だという認識が植え付けられてしまう。いやそうではなく、これはあなたの地元で起きている問題と同じなんですよ、と普遍性を押し出す必要があった。

やはり現場で観察していると、地方に共通の問題がそこにある。多くの人が、原発20キロメートルの町に戻った人は放射線を恐れて暮らしてるのだろうと想像するようだけど、地元で聞くのは、工事関係の新住民が増えて治安や交通事故が心配だ、病院が遠くて大変だ、後継ぎがいねえんだという話ですね。

NHKの番組で学生を被災地に連れていくんですけど、番組側はどうにかして地元の人と原発の話をさせようとする。わかりやすいですよね。でもおばあちゃんの口から出るのは、震災後も前もずっと商売を続けてきて、人が増えて売り上げは上がったけど、休みが取れなくなってね、みたいな日常の中で語る言葉。こっちのほうがよほど真実ですよね。そこを無理やり特殊化しようとする。こういう点にもあらがっていかねばと思っています。

──「福島を理解してるふり、寄り添ってるふりはただの迷惑」と突き放しておられます。開沼さんが挙げる「福島へのありがた迷惑12箇条」の第1条は、「勝手に『福島は危険だ』ということにする」。

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憐憫(れんびん)の情、かわいそうだという思いはしばしば“上から目線”になり、問題をむしろ悪化させる。何となくの当てずっぽうな支援を押し付けるだけでは、現にそこに生きている人たちのニーズを満たせないし、むしろありがた迷惑になってしまう可能性がある。

外で遊べないらしい子供たちのために毎年幼稚園に積み木を贈るとか、もちろん善意だろうけど、子供を外で遊ばせられるよう、どれだけ地元が努力してきたか。そこからどれだけ時間が経過したか、何も理解しようとしていない。理解する努力をはしょって、善意だけを押し付け、悦に入ろうとするのは、単なる自己愛に見える。

前のめりの正義感は滑ってしまう

──「滑った善意」が「的を射た善意」にまで悪影響を与えるとも。

私が福島を救ってやるみたいな前のめりの正義感は滑ります。地元の人はそんなこと望んでないし、当人も「アレ、思ってたのと違う」と戸惑いながらどんどんズレていく。で、相手の気持ちを酌み取れる、的を射た善意で動ける人ほど「ありがた迷惑になりはしないか」と気を回し、引いてしまったりする。そこに空白地帯が生まれ、問題が放置される。

純粋な気持ちで同情したり、ずっと忘れてはいけないと心に誓うのはそれはそれで結構。問題は、じゃあ具体的にどうするか。それは福島の産品を「買う」、福島に「行く」、ハードルは上がるけど福島で「働く」ってことじゃないの、って話です。

中村 陽子 東洋経済 記者

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なかむら ようこ / Yoko Nakamura

『週刊東洋経済』編集部記者

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