地元議員が、ホンダのことを知っているとはかぎらない
桑島:前回は園田さんが米国政府渉外のご担当として、危機管理マニュアルを作り、実行したというお話を伺いました。それについてさらに伺いますが、米国の議員たちとはどんな話をして関係をつくっていったのですか。
園田:そうですね。その前に、なぜ議員と密に連絡をとる必要があるかというお話をしたいと思います。
たとえば2000年代の頭にフォードでは、ブリヂストンの子会社であるファイアストン社製のタイヤのリコール問題が起きました。あのとき議員のひとりが、ブリヂストンの工場が自分の選挙区にあるにもかかわらず、そのことを「知らなかった」と言いました。それ以来、私たちは「地元の議員がホンダの事業を知っているとは決して思い込んではいけない」と肝に銘じたのです。
それからは「今、どこでどういう製品を生産しています」「どれだけ米国人の従業員が働いています」「給料はいくらで、税金は総額でいくら払っています」「輸出総金額は何百億です」というような話をしっかり伝えるようにしました。
われわれは景気の変動によって、どうしても工場を一時的に閉鎖するときがあります。そのときにはメディアに発表する前に、その州の議員に電話して、「明日こういう記事が出ます。決して驚かないでください」と伝えました。なぜなら、いきなりメディアから知らされて、「どう思いますか」と聞かれると、議員も何と答えていいかわからないときがある。そこで「ホンダはちゃんと雇用を守ってくれる、心配いらない」と言ってくれるようにしておくためです。
なぜそういうことが大切かというと、中国のオイル会社のCNOOCが、カリフォルニアのオイル会社ユノカルを買おうとしたことがあります。またドバイの企業が米国に港の設備をもつ英国企業を買収しようとしたときは、猛烈に議会が反対しました。報道によると、どうやら議員はプロジェクトの中身をよく知らなかった。それで記者に電話で質問されて、反射的に「中国企業が買うのはけしからん」と答えてしまった。
議員さんというのは、知らないことでも聞かれたら何か言わないといけないから、国のためになるようなことを直感で言う。でもよくよく説明すると、実はわかるような話もあるはずです。だからわれわれが得た教訓は、議員さんは絶対に驚かせてはならず、事前に正確な情報をしっかり伝える、ということでした。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら