米国ホンダの政府渉外に、日本人が学ぶこと 進出国との信頼関係はこう作れ!

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企業のダメージコントロールにも同じことが言えます。ある日、『ニューヨークタイムズ』に、「ホンダの燃料電池車の技術はダメなんだ」という記事が出たことがありました。「ホンダの燃料電池車はCO2の排出量が少ないと言っているが、それを造るために発電所では大量のCO2を排出しているから、結局、同じことだ」と。しかしその発電の部分を入れても、CO2の排出量が非常に小さいということは科学的に証明されています。

私は朝、その記事を読んですぐ、事務所の米国人のパートナーであるエドに、「これに反論するぞ」と言いました。午後1時くらいには、ホンダの工場、研究所、PR、それから法務部の5、6カ所と電話会議でつないで、反論の原稿を作り、その日の夕方にはもうそれを『ニューヨーク・タイムズ』に送りました。誤りの記事が出たときは、その日のうちに対応しないと、もう手遅れです。

即時に対応できるかが決め手になる

桑島:認めたことになる?

園田:認めたことにもなるし、通信社が記事をどんどん配信しますから、いろいろな州の新聞に出てしまう。それで翌日、その記事を書いたエディターからメールが来ました。「ホンダの主張の正当性を確認するため、エンジニアなど専門家の意見を伺いたい」という。われわれは科学者の会議にもたくさんレポートを出していましたから、彼らが評価した資料がある。そういうものを集めて、火曜日、遅くとも水曜日には全部送りました。

そうしましたら、『ニューヨーク・タイムズ』から、いっさいメールが送られて来なくなった。木曜日になっても反応がないから、「誰か『ニューヨーク・タイムズ』のエディターを知っている人はいませんか?」と社内に呼びかけたら、シニア・エディターを知っている人間がいたので、それまでのメールのやり取りを全部そのシニア・エディターに転送した。そうしたら土曜日の朝刊の社説の下に訂正の一文が載りました。

やはり反論するときは、スピードが勝負です。それには反論の材料を普段から作っておかないといけない。やはり日頃からシンクタンクやサイエンティストたちと協力関係を築いておくことが大切です。

桑島:実は私、先日、ワシントンのホンダさんにお邪魔させていただいて、エド・コーエンさんともお話ししました。印象的だったのが、ホンダ・ノースアメリカのワシントン事務所というのは、東京から独立して運営されているということです。これはたとえばほかの日系自動車メーカーと比べても、かなり権限委譲されているように見えます。私は政府渉外の重要性を本社の経営陣がなかなか理解しないのが問題だと思っているのですが、ホンダさんではそれが可能なのはなぜでしょうか?

園田:ホンダでは、米国の商売に対して、本社が口出しをしてはいかんという不文律が、非常に早い時期からありました。これは「現場がいちばんよく知っているんだ」という創業者の考えからです。そういう会社の長い歴史があって、私たちが新入社員で入ったときも、本社は米国についてはほとんど口出ししませんでした。

だから、われわれGR(ガバメント・リレーションズ)が独立してホンダの本社に対してものを言えたということではなくて、創業者たちの強い信念に基づく企業文化があり、その中でわれわれは自由に活動できたというだけです。だから私はワシントンにいた間、本社と相談したことはそんなにありません。ただし、本社にはつねにできるだけわかりやすく報告をするようにしていました。やはり完全に自由放任にやらせることはありえませんよ。企業ですから。

桑島:そうだったんですね。それではほかの企業と比較して、これはホンダならではだ、というようなGRの活動はありますか。

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