日テレ三冠王の裏に異色の「壊し屋」がいた 「目の前の仕事」を飛躍のきっかけにするには

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「いまごろ国会前に立って、ちゃんとリポートしているはずだったんですよ。会社が配属してくれれば(笑)。ジャーナリストになると言って、東京に残ったので、親はがっかりしていると思う」。なにせ幼少期、自宅で見ることを許されていたテレビはNHKだけ。高校生までろくにバラエティー番組を見たこともなかったほどだ。

しかし栗原さんは、不本意な配属にグレなかった。AD時代は嫌な仕事も多く、スタッフのタバコを買ってくる仕事はその最たるものだったというが、これにも一工夫。「みんな銘柄が違うから面倒くさいんですよ。だから、何十人いるディレクターが何を吸うか、全部書き出して、カートンで買って自分のロッカーに入れておくんです。いざ買って来るよう言われたら、『はい、わかりました!』って出掛けて行ったふりをして、自分のロッカーから出して渡すと、『お前、早いな!』って驚かれました」

どんなに嫌な仕事も、細かい仕事も、やり方一つで楽しくできる。しかもそこから「こいつ、できるヤツ」と思ってもらえるきっかけを作ることもできるかもしれないと、栗原さんの仕事からわかるだろう。

私が会社を辞めない理由

栗原さんはまた、目の前の仕事に真剣に取り組んでいれば、プラスの連鎖が起きることを教えてくれる。「番組の最後に、スタッフクレジットが出るじゃないですか。たまたま『¥マネーの虎』を見ていた国民的アイドルグループのマネージャーさんから当社に連絡をもらって、それがきっかけで会うことになり、『何か一緒に番組をやりたい!』と言っていただいたのです」

これを機に、その後同グループのメンバーと数々の番組を一緒につくることになった。一つひとつ結果を出していけば、それが磁力になり、魅力的な人を引きつけ、より影響力の大きい仕事ができるようにつながっていくものだ。

これだけの実力があれば、他社からの転職オファーもあるだろう。実際『¥マネーの虎』が当たったときも、栗原さんに対して、ウン千万円、ウン億円でラブコールがあったと聞く。

「海外の有名番組を手がけ、『¥マネーの虎』の海外版SHARK TANKのパイロット番組を制作したプロデューサーから、『ミスター栗原、君はいったいいくらもらっているんだ? 別荘をいくつ持っているんだ?』みたいな話をされたことがあります。『いや、僕別荘持っていないし、そもそもサラリーマンですから』って言ったら、クレイジーだと言われましたよ(笑)」

でも、「今の会社は、好きなことを好きなようにやるのを、文句を言わないで雇ってくれているから、辞めない」と栗原さん。言うまでもなく、会社は誰にでも好きなことを好きなようにやらせてくれる場所ではない。しかし、誰かと同じ人間になるのではなく、ほかにない存在価値を会社に認めてもらうことができれば、好きに仕事ができる環境はできてくる。

インタビューの最後、栗原さんに、「社内外にロールモデルはいますか?」と聞くと、「え、ロールモデルって何ですか? それ、流行っているのですか?」と返ってきた。社内にロールモデルがいないと嘆く諸君、これこそ、既存の枠にとらわれない「壊し屋」を担う男のすごみである。

次回の変人さんはこんな人!

さて、次回の変人さんは日本が誇るあのブライダル雑誌の「カリスマ」女性編集長だ。

「仕事に必要なのは愛とユーモアよ!」と連呼する彼女の変人仕事哲学は、やがて周りの人間を巻き込むことで、一人では形作れないほどの大きなパワーになっていく。その過程を、余すところなくご紹介したい。

合い言葉は、変人ウォッチ!

※ 次回掲載は2月27日(金)です。お楽しみに!

川下 和彦 クリエイティブディレクター/習慣化エバンジェリスト

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かわした かずひこ / Kazuhiko Kawasita

2000年、慶應義塾大学大学院修士課程終了後、総合広告会社に入社。マーケティング、PR、広告制作など、多岐にわたるクリエイティブ業務を経験。2017年春より、新しい事業を創造し、成長させることを標榜するスタートアップ・スタジオに兼務出向。広告クリエイティブに留まらず、イノベーション創出に取り組んでいる。著書に『コネ持ち父さん コネなし父さん』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『ざんねんな努力』(アスコム)などがある。(撮影:原貴彦)

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