「10歳少女レイプ中絶事件」フェイク騒動の顛末 真実をめぐって有力メディアも右往左往

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オハイオ州にあるコロンバス・ディスパッチ紙の本社(写真:Nick Fancher/The New York Times)

オハイオ州に住む10歳の少女がレイプされ、人工妊娠中絶を受けるために隣の州に行かなければならなくなったというニュースは、2週間近くにわたり中絶をめぐる国民的な論争の対立点となった。ジョー・バイデン大統領をはじめとする民主党陣営は、連邦最高裁が中絶の権利を認めたロー対ウェイド判決を覆したことによって害が出ていることを示す事件だと主張した。

ただ、裏付けとなる事実は弱かった。地元紙インディアナポリス・スターの報道が単一の情報源に基づくものだったため、各メディアの記者たちは確認に苦労した。

WSJ「話ができすぎていて確認できない中絶事件」

保守派のニュースメディアは、この少女は本当に存在するのかという疑問を投げかけた。フォックス・ニュースの番組司会者ジェシー・ワターズ氏は、中絶権利擁護派が自らの立場を強化するために仕組んだ「デマ」の可能性があるという見方を示した。ウォール・ストリート・ジャーナルは「話ができすぎていて確認できない中絶事件」という見出しの社説を12日にアップした。

一方、左派の人々は、少女や犯罪の状況について明らかになっている情報がほとんどないと指摘する報道を目にするや、飛びかかって非難した。7月9日、ワシントン・ポストのグレン・ケスラー記者は詳細のいずれも確認できなかったと書いた。

「事実確認が極めて難しい話だ」とした同記者の結論に対し、ワシントン・ポストのウェブサイトには怒りのコメントが殺到した。この件は、党派対立のテーマとなっている問題については、たった1つの記事が激しい論争の焦点になりうることを示す一例となった。

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