孫社長、意中の後継者はいったい誰なのか? ソフトバンク前社長室長が明かす、その条件

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孫社長は19歳のときに、人生計画を作った。「20代で事業を興し、30代で資金を稼ぎ、40代で勝負し、50代で仕事を成し遂げ、60代で継承させよう」というものである。

私が社長室長として支えたのは、孫社長が48歳から56歳までのときだった。40代終わりの48歳のとき、ボーダフォン買収という一勝負をした。56歳でスプリント買収を果たし、アメリカに進出した。お客様の数で、日本に3900万人、アメリカに約6000万人と約1億となり、NTTドコモさんを抜いた。人生計画どおりである。

勝負どころで「ワープ」できるか

ドコモを上回ったといっても、スプリント買収という飛び道具じゃないか。そんなことでいいのか、という声も聞こえてきた。この批判に対する孫社長の答えはこうだ。

「そんなんでいいんだ!」

孫社長はこう言う。「体が小さかったらかかとの高い靴を履け。高いところだったらハシゴをかけろ。あらゆる知恵を活かして、なんでもいいから夢をつかみにいく」

ソフトバンクのM&A戦略は目標達成への「ワープ」である。スプリントの買収にせよ、ボーダフォン買収にせよ、ソフトバンクはM&Aによって一から事業を立ち上げる時間を買ったのだ。

成長というと、多くの人は少しずつ力をつけていくことを考える。もちろんそれは大事である。だが、10年で時価総額を5倍にするというような大風呂敷な目標を達成するには、「ワープ」は欠かせない。後継者はどんなことがあっても目標を達成するという執念と、「ワープ」の手法を考え出す知恵を持っていることが条件となる。

孫社長の目は、アメリカからインドに向けられている。インドは25歳未満の人が約5割。ソフトウエアの開発者が520万人と世界最多。2030年代中ごろには、インドはGDPでアメリカを抜いていく。ソフトバンクは、これから10年間で1兆円以上をインドに投資していく。その中から第2、第3のアリババが出てくるだろう。「次は、インド」と孫社長は燃えている。

後継者の条件は明示された。だが、孫社長曰く「60代で継承といったって、60代は69歳まである」。57歳の孫社長だから、12年ある。後継者候補が明らかになってくるには、まだまだ時間がかかりそうである。

嶋聡氏の新刊『孫正義の参謀』予約受付中(1月9日発売予定)。電子書籍にて先行発売中

嶋 聡 ソフトバンク元社長室長

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しま さとし / Satoshi Shima

1958年岐阜県生まれ。名古屋大学経済学部卒業。松下政経塾第2期生。政経塾卒塾後、塾の指導塾員、研究所長、東京政経塾代表を務める。1996年より衆議院議員に当選、3期9年を務める(新進党→民主党)。民主党では、菅直人、鳩山由紀夫、岡田克也三代表の補佐役を務める。2005年、郵政解散による総選挙で落選。政界からビジネス界へのトップランナーになることをめざし、孫正義社長を補佐するソフトバンク社長室長に就任。2014年4月より同社顧問(2015年6月退任)。東日本大震災復興支援財団評議員、東洋大学経済学部非常勤講師などを兼務。著作に『政治とケータイ』(朝日新書)、『「大風呂敷経営」進化論』(PHP研究所)がある。

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