菅首相の自己変革には「長い耳」が必要

菅首相の自己変革には「長い耳」が必要

塩田潮

 1月1日、菅首相が首相公邸での新年会で「やりたいことを伝える」、「権力を掌握して頑張る」と口にした。2つとも未達成という自覚があり、新年に当たって挑戦と克服を宣言したと見ることもできる。

 「やりたいことを伝える」は、伝える力、つまりアピール力の不足もあるが、「空き菅」とからかわれたように、「やりたいこと」の中身の乏しさが問題だった。先見力と構想力、独自のビジョンとそれを支える哲学や思想体系の欠如を指摘する声は強かった。

 もう一つの「権力の掌握」はもっと深刻な課題だ。菅首相は就任以来、実質的最高権力は未掌握で、それは「脱小沢」を主導する仙谷官房長官の手にあると見られてきた。「名ばかりの首相」という実態を首相自身が認めたことになる。

 権力の掌握には政策、人事、カネの3つが必須条件といわれるが、政党助成金のウェートが大きい現在、重要なのは政策と人事の決定権だ。仙谷氏の処遇を含む内閣改造、離党勧告や議員辞職にまで踏み込む姿勢の小沢問題への対応は、野党対策という側面も大きいが、見方を変えれば人事問題である。

 人事権の発動で実質的最高権力の掌握を、という菅首相の野心が見え隠れしている。

 2011年を迎え、菅首相はいままでの「オールド菅」では危機克服はむずかしいと痛感し、「ニュー菅」への変身が不可欠と気づいたのかもしれない。「やりたいことを伝える」「権力を掌握」という宣言は自己変革の第一歩なのか。捨て身で挑戦し、それが奏功すれば、政治リーダーとして大化けする可能性もある。

 だが、一時しのぎのための見せかけの変身術だと、すぐに見破られ、沈没は時間の問題となる。

 実はトップリーダーに必要な条件で菅首相に欠けている点は構想力や権力の掌握だけではない。自己中心的で権力欲が強いという個性が災いするのか、リーダーとしては人脈や人的ネートワークが著しく貧弱だ。

 そのために情報集積地のはずの首相官邸で情報過疎に陥り、「裸の王様」を余儀なくされる危険性がつきまとう。

 今年は卯年である。自己変革に踏み出すのであれば、もう一つ、首相に必要な「長い耳」を持つことが必要だろう。
(写真:尾形文繁)
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
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