24歳でプロ野球をクビになった男が見た真実

初めて挫折を味わい、勝負の世界で財産を得た

華やかなプロ野球の世界。活躍した選手には名誉と莫大な報酬がもたらされる一方で、競争に敗れ、表舞台から去りゆく選手がいる。そんな「戦力外通告」を受けた選手をドキュメンタリーで描いてきたのが、TBSテレビの『プロ野球戦力外通告~クビを宣告された男たち』だ。
12月30日(火)夜22時~に通算11回目の放送を迎えるこのシリーズ。プロ野球選手の姿は特別な存在ではなく、不況の中では誰の身にも起こりうる“究極のリアル”でもある。今年の放送を控え本編に収まりきらなかったサイドストーリーの第2回(第1回「GG佐藤、4度のクビを味わった男の再出発」)は、2012年に戦力外通告を受け、トライアウトにも挑戦した元横浜DeNAベイスターズ選手で、現在はスポーツライターなどで活躍する高森勇旗氏の独占手記をお届けする。
高森勇旗氏はプロ野球引退後、多方面で活躍している(写真:尾形 文繁)

「高森、6年間やってきた中で成績も思わしくないし、来年は契約をしない方向で考えている」

ゼネラルマネージャー(GM)である高田繁氏と交わした初めての会話は、戦力外通告だった。慎重に言葉を選び、最大限の配慮を見せる姿勢は、高田氏なりの去って行く人間への気遣いだろう。

2012年10月2日、横須賀にある横浜DeNAベイスターズの合宿所。その応接室で私はクビを宣告された。無機質な部屋で淡々と続く会話。記憶は定かでないが、「プロ野球選手」でなくなってしまうのに要した時間は10分もかからなかったであろう。そこに至るまでの時間と比べれば、ずいぶんとあっさりしたものだと、どこか他人事のようだったのをよく覚えている。

選手がスーツを着て現れる意味

一連の手続きが終わり、合宿所を出た。抜けるような秋の空が気持ちよく、その日も横須賀港に浮かぶ自衛隊の船は鈍い光を反射させていた。グラウンドに入り、選手、コーチ、スタッフと挨拶を交わす。選手の私が、この日にスーツを着て現れるという事がどういうことかを、誰もが説明せずとも知っている。1人ひとりと挨拶を交わす中で、向こうから走ってくる選手がいた。梶谷隆幸。後に2014シーズンのセリーグ盗塁王を獲得する、同期入団の同級生である。

「カジ、俺、クビになったわ」

泥だらけのユニフォームで私の前に立った梶谷の目には、涙が浮かんでいた。

「オマエ、泣くなや。オマエが泣いたら、俺も泣くやろう」

入団以来6年間、ともに一軍を目指し戦った戦友の涙は、それまでの日々を振り返らせるのには十分だった。

「カジ、俺の分まで頑張れ。オマエは、1年でも長くやってくれ」

固く握手を交わした後、梶谷は練習へと戻っていった。私がクビになろうがなるまいが、明日の活躍を夢見るプロ野球選手たちの勝負の日々は続いていく。ロッカーを整理し、私は家路についた。ゆっくりと沈んでいく太陽を見つめながら、そういえばこんな時間に家に帰ってきた事などなかったと、ふと思う。強く差し込んでくる西日が、自分がクビになったという事実をより濃いものにする。家のソファーに腰掛け、ぼんやりと天井を見上げていた。

「さぁ、どうしようかな」

24年間、野球しかやってこなかった自分が初めて味わう、先行きの見えない不安が私を襲っていた。

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