──汚いのかきれいなのか、想像もつきません。
鍵山:ブラジルは救済事業として、仕事に就けない人たちにわずかな賃金でトイレ掃除をさせていますから、そんなにひどくはありません。ですが、そういう人たちのやる掃除は知れていますよ。私たちがトイレの外せるものは全部外して、隅々まで徹底的にきれいにすると、見ている人はビックリしています。
ブラジルも10年以上、行きました。5年目には現地の人が5000人も集まる会に発展し、みんなで道路の掃除をしました。テレビの取材も来ましたよ。ブラジルは長年、奴隷制度がしかれていて、掃除はもともと奴隷がやる仕事なのです。特にトイレ掃除は最下層の人がやるという位置づけで、一般の人はしない。
──それなのに、日本の会社の社長が地球の裏側からやってきてトイレ掃除をしている。それはニュースになりますね。
鍵山:大勢で掃除している様子を見れば、人は何だろうって思います。私たちが掃除している横で車が止まり、「何をやっているんですか。来年もやるんですか。私も参加していいですか」とブラジルの人に随分聞かれました。
──続けているうちに、周りの人が「嘲笑」から「同調」へ変わるのは日本と同じなのですね。
鍵山:そうです。
──ニューヨークはどのような感じですか。
鍵山:第1回 「ニューヨーク掃除に学ぶ会」は平成15(2003)年に開催されて、ブルックリンにあるジャッキー・ロビンソン・ユースセンターというスポーツ施設に行きました。施設の方にまず「絶対に素手・素足でやらないでください。ゴミ箱のフタは絶対に開けないように。中に何が入っているかわからない」と注意されました。注射針やエイズ患者が使ったものなど何があるか保証できないから、触れないでというわけです。
手袋をしてトイレ掃除しながら、ニューヨークの一端を見た思いがしました。
──台湾は?
鍵山:第1回「台湾掃除に学ぶ会」も平成15(2003)年に開催され、台北市の小中学校に毎年、もう10年以上、行っています。昨年は2回行って、今年は4月に行ってきました。台湾でイエローハットの店舗を展開したのが始まりです。やはり毎回、メディアが来てニュースが報じられます。
自分のエネルギーを掃除に向けた先にあるもの
──鍵山さんの掃除活動のゴールは何ですか。世界中を美しくして、人々の心がきれいになることでしょうか。
鍵山:世の中は争いごとに満ちています。戦争だってもとは人の不満から始まり、それが増幅していって起こるのですから、ものすごいエネルギーです。もし、戦争に向けるエネルギーを掃除のほうに向けたらすばらしいでしょう?
自分のエネルギーの向け方が重要なのです。争いや武器に向けるのか、掃除に向けるのか。掃除に向ければ、地球がきれいになり、心も平和になります。
昨今、自分の利益になることしかしないといった風潮が見られます。しかし、そういう人間の人生がよくなったためしはありません。もっと社会や国家に目を向けて、少しでも自分の時間や手足を使わないと、世の中はよくならない。
私から見ると、今の日本人は寿命を延ばし、長生きすることには一生懸命ですが、そんなことは自分が決めることじゃないですよ。いくら90歳まで生きようとしたって、若くして亡くなる人もいます。
そんな自分で決められないことを一生懸命やるより、自分が決められることに一生懸命取り組めばいいのにと思います。どう生きるかは自分で決められます。
──鍵山さんは現在、81歳にして世界中を飛び回ってトイレ掃除をされています。結果的に、健康にもいいのかもしれませんね。
鍵山:いいでしょうね。朝、公園の掃除をしているときに、マラソンをしている人が通っていきます。はぁ、はぁ、と息を切らして熱心ですが、それは自分のことだけに熱心とも言えます。熱心な人であっても、立派な人とは言えない。もしその人が、マラソンもするけど落ちているゴミも拾ったら、立派な人になるのです。
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