あなたは、なぜいつも優柔不断なのか?

「意思決定」に隠れた2つの原理

いんなみ・いちろ●専門は意思決定論・交渉論と医療政策。1958年生まれ。東京大学法学部卒業。都市銀行、厚生省を経て、ハーバード大学行政大学院、公衆衛生大学院に留学。1992年シカゴ大学にてPh.D.取得。94年から現職。著書に『すぐれた意思決定』『生命と自由を守る医療政策』『「社会的入院」の研究』など。(撮影:大澤 誠)
人の優柔不断は性格のせいではなく、決め方の基本ルールを知らないからだという。『意思決定トレーニング』(ちくま新書)を書いた慶應義塾大学総合政策学部の印南一路教授に聞いた。

──優柔不断は性格のせいではないのですね。

「決められない」のは、決して性格のせいではない。

意思決定能力に自信があるかと聞くと、日本人のほとんどはないと答える。それを表す言葉が優柔不断。確かに優柔不断を性格論としてとらえている本は多い。しかし、それは間違い。性格だと思った途端に、変えられないことになる。容易に変えられないから、心的特性を性格と呼んでいる。性格ととらえると、変えるのをもう半分あきらめたのと同じだ。そうではなくて、優柔不断を「問題状況に対処する能力が低い」ととらえることだ。能力であれば、努力によって向上もする。

──とかく決断ができないともいいます。

成功した経営者が書き残したがるものに「経営は決断にある」という言葉がある。これはリーダーとして特別な力が必要というイメージを作る。それも違う。決断の問題はごく限られたものだけに該当するのであって、普通の意思決定のほとんどは、分析し考えればできるものだ。1日の生活を考えてほしい。朝何を食べようか、どの電車に乗ろうか、いずれも意思決定しているのだが、ほとんどルーチン化しているから迷わない。このようにほとんどの領域が、ちょっと考えただけで迷わない意思決定の問題なのだ。

米国では初等教育の早い段階から意思決定の問題の授業がある。人生のほとんどが意思決定であるのに、きちんとしたスキルを身に付けられないまま、何となくやっているのが日本人。しかもそれは経験だけで身に付くと思っている。そのためほとんどのことが運任せの決断の問題に見える。そうではなくて、決断の問題と思われているもののほとんどは、きちんと分析すれば意思決定の問題として対処できる。

直感任せには危険も

──直感任せで過ごしてもいけませんか。

人間の短期的な情報を処理する能力、たとえば記憶力、計算力はかなり劣っている。たとえば短期記憶。携帯電話の番号は覚えられるものの、意味のないランダムな数字を12ケタパッと示されて1秒で覚えられるかというと、ほとんどの人には無理。感覚的なものを発達させて、あれかこれか扱いやすい簡単な決定ルールに頼る。これが直感の正体だ。

ところが、人生や会社を取り巻く問題はもっとシステマチックに考える必要がある。たとえば値の張る買い物、あるいは大学の選択、就職、結婚。そういうたぐいのものに直感が入ってきて、ついそれに過剰に左右されてしまうと、大事な意思決定を誤ることになる。そうせず、直感の中身を知り、問題を分析すれば、完璧で理想的ではなくても、優れた意思決定はできる。

──意思決定ルールには原理があるのですか。

二つの原理がある。一つは満足化原理。ある程度自分が満足できる選択肢を見つけたら、それ以上サーチをしないでそれを選ぶ。もう一つは選択肢を徹底的に評価してベストのものを選ぶ最適化原理だ。株式投資の例がわかりやすいだろう。満足化原理では、株価が1割上がったらもうそれでいいとする。最適化原理では、底値で買って最高値で売るまで頑張る。この両者は遂行するのに要求される能力もコストも違う。現実は両者の中間で、どのくらい最適を残せるかだろう。

──重要なものは最適化原理に基づくことになりますか。

生活上ではたとえば自動車や住宅の購入だ。十分な時間とおカネをかけて選ぶことになる。その際に複数の評価基準で10の選択肢から選ぶとなったら、一瞬で最適なものを選べるわけがない。選択肢の全特性の評価にウエートづけをし、比較して選ぶことになる。

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