「幽霊」鳩山前首相はいまや信用ゼロ

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「幽霊」鳩山前首相はいまや信用ゼロ

塩田潮

 6月2日の辞意表明の直後に「次の総選挙に出馬しない」と明言していた鳩山前首相が10月24日、「議員を続ける方向に傾いている」と事実上の引退撤回宣言を行ったという。

 6月の引退宣言の際は、選挙区では反発も大きかったらしいが、「潔い退き方」と評価した人も多かった。ところが、わずか4カ月余で前言撤回した。

 首相在任中は「言葉の軽さ」「発言のぶれ」で墓穴を掘ったが、いまになって「民主党の状況が思わしくない」とか「国難というべきとき」と撤回の理由を並べ立てても、相手にされないだろう。また気分と情勢が変われば、「やはり引退」と言い出すのではと疑われ、いまや信用ゼロだ。

 鳩山氏は野党時代から「首相退陣後の政界引退」を唱えてきた。自民党政権下で、退陣後も権力への強い残尿感を抱いたまま議員を続ける「成仏しない幽霊」たちの跳梁跋扈を目のあたりにした。

 例外的に「退陣後の引退」を自ら実行したのが小泉元首相で、在任中、61歳のとき、引退は「65歳がめど」と言い切り、実際に退陣後、次の総選挙に立候補せずに66歳で引退した。鳩山氏には、小泉氏のようにという気持ちもあったのではないか。

 6月、退陣の際に「辞めた人が影響力を行使しすぎてはいけない」と語ったが、本気なら、潔さとともに、「幽霊横行」を容認する政治文化の変革者として評価を受ける可能性があった。ところが、これから本人も「幽霊」の一人となって政界を徘徊するという。

 鳩山氏の政治リーダーとしての評価はきわめて低い。だが、1996年に進んで「この指止まれ」方式で民主党を結成し、13年を経て党首として政権交代を実現した点は、おそらく誰もが認める「歴史的功績」である。だが、民主党の初代首相としては落第だった。

 まさか「汚点を拭うために首相の座に再チャレンジ」といった身のほど知らずの野望を抱き始めているとは思えないが、「成仏」を拒否して「幽霊」の道を歩めば、最後には「私欲と保身とは無縁の宇宙人」というチャーミングなニックネームも失うことになるだろう。
(写真:尾形文繁)
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
塩田 潮 ノンフィクション作家、ジャーナリスト

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しおた うしお / Ushio Shiota

1946年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
第1作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師―代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤』『岸信介』『金融崩壊―昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『安倍晋三の力量』『危機の政権』『新版 民主党の研究』『憲法政戦』『権力の握り方』『復活!自民党の謎』『東京は燃えたか―東京オリンピックと黄金の1960年代』『内閣総理大臣の日本経済』など多数。

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