「日米の情報一体化が抑止力向上に繋がる」 マイケル・グリーン氏に聞く日本の安全保障

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――安倍首相は米国が朝鮮半島有事の時に日本の基地を使用するに際しては日本に事前通告する必要がある、と発言して韓国で物議を呼んだ。

大げさに受け止められていると思う。安倍首相にはなんら脅迫の意図はないはずだ。この問題をフォローしている人なら誰でも知っているが、基地の中には地位協定の下で国連旗が翻っているものもある。国連といっても別名・米国だが、そういう基地は北朝鮮が休戦協定を破った場合には使用可能ということになっている。これは極秘ではない。それは地位協定の規定の中にある。

安倍首相は集団的自衛権をそのケースに使おうとしたのだと思う。つまり、新しい解釈によって朝鮮半島有事の際の日米同盟の能力をより明確にし、予測可能性を高めようということだ。韓国の関心はそこにある。

――1998年の日米ガイドライン見直しの中にそういう兆候はなかったか。

それはあった。ガイドライン見直しは地域有事の際に協力する方法を一部明らかにした。それは日本の安全保障政策の継続的進化にとっては重要なステップだった。しかし、その後でも日本の米国との協調行動は依然として非常に限定的だった。

今回、“一体化と武器使用”の禁止を緩めたことは大きな変化であり、後方支援やミサイル防衛計画などで日米協力を強化することが容易になった。朝鮮半島有事の際、米軍は国連旗が翻る日本の7つの基地以外の基地は使えないというのは正しくない。米軍はそれ以上の基地を必要とする。その基地使用には日本政府の許可がいるため、使用許可を得なければならない。

日本政府が使用許可を出すとして、従来の憲法9条解釈の下で日本がどの程度まで支援に応じるのかどうかはいつもハッキリしなかった。今回の政策は日米同盟をより信頼性の高いものにする。米国は必要な追加的施設にアクセスし、日本も米国に何らかの支援を提供できる。安倍首相はそう言おうとしている。

平和主義と憲法9条は無関係

――米軍司令官の下で日本の自衛隊員が作戦に参加する日米合同タスクフォースは実現可能だろうか。

可能だ。それは米国が望む方向でもある。すでに横田基地の空軍防衛部隊の一体化で既成事実になっている。ソマリア沖の対海賊タスクフォースでもそうだ。2011年3月の東日本大震災時にもそれに近いことをやった。それは安倍首相が目指す方向でもある。日米同盟の歴史との関連で注目に値する。

政治学者の中には集団的自衛権や武器使用の一体化の禁止は、第二次世界大戦後日本の平和主義、反戦文化を反映したもの、といまだに主張している人たちもいる。しかし、日米は朝鮮戦争ですでに共同行動をとっている。

皮肉なのは、日本が再び戦争に巻き込まれないように米国に対してバリケードを設置しようとする吉田元首相陣営やその流れをくむ自民党主流派の支持者がいることだ。吉田ドクトリンは日本の自治を維持する方法の一つだった。米国と同盟を組むが、中国や北朝鮮、さらに他のアジア近隣諸国との紛争には巻き込まれないようにして、経済の復興・発展に力点をおくというものだ。ただし、憲法9条や集団的自衛権行使の禁止がなければ、平和主義ではなくなる、というのは間違ってる。

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